■クロノス大祭『NIGHT IS OVER』
歴戦でイケメンでクールニヒルの私。冬場はロマンチックな夜を求める女達に言い寄られ、愛想を振りまく。(「変わらぬ環境は飽きたな……」)
そんな妄想をしていたのは何時の日であろうか。
今は愛を交わした愛しい女が傍にいる。
「ヨゴレ、あれだぞ」
傍らの愛しい女――シャスカが巨大な時計を指差した。
年に1度だけ金色の砂と純白の雪が舞うクロノス大祭。彼氏としては、まぁタマには頑張ったろう、と祭りに便乗してシャスカとデートをしている。
シャスカが指差した時計からは『幸せな恋人たち人形』と『愉快な楽隊人形』が現れ、美しい音楽を奏でている。この人形はクロノス大祭の日にしか現れないらしい。
「うむ」
人形を見上げながら、私はシャスカの頭を撫でた。さわり心地の良い髪だな。剣士でありながら荒れていない髪は素晴らしい。流石は私の愛する女。
「綺麗だな……」
「そうだな……」
うっとりと呟いたシャスカに同意する。
金砂舞う黄金の空から純白の雪がふわふわ舞い降りる中で踊る人形たちには最高の舞台ではないか。
私は人形を見ながらシャスカの腰に腕を回した。ごく自然に。別にやましいつもりなどない。いや、全然ないとは言い切らないが。
すると、シャスカの腕も私の腰に回された。
(「……うむ。恋人らしいぞ。この調子だ」)
ちらりと横のシャスカの顔を見遣る。
時計の人形の動きを楽しそうに見ていた。ほんの少し頬が紅いような気がするのだが、気のせいだろうか。
得物も無しで祭事中の人多い町中を歩くのは落ち着かなかったが、シャスカは楽しそうだった。私も当然楽しかった。仕上げがこれだ。年に1度しか見れないという人形。そこで恋人らしい甘いムードにする。これが私の計画。
(「ここでぎゅっと後ろから抱きしめて愛の囁き……完璧ではないか」)
そっと自分の腰に回されるシャスカの腕を解いて後ろへ……後ろへ行くんだ私。しかし、シャスカの腕から離れるくらいなら強い敵と戦う方が簡単な事ではないだろうか、そんな事が頭を過ぎる。――要するに勿体無い。
「……また、一緒に見たい、な……」
人形を見つめたままシャスカが呟いた。頬が紅いぞシャスカ。可愛い奴だ。
「あぁ、また一緒に見に来ような」