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2人でクロノス大祭

鴬語花舞・アゲハ
千里同風・カガリ

■クロノス大祭『比翼連理』

 さらさらと金の砂が舞う。はらはらと粉雪が舞う。混じり合って降る2つは、この地ではまるで元から一つのものであったかのように自然に融け合ってこの日を彩る。
 クロノス大祭――祝福の日。一日を大好きなカガリと過ごしたアゲハは、ふと、ある事に気がついた。気がついてしまったからには黙ってはいられず、じっと隣のカガリを見上げる。
「そういえば、俺まだカガリにプレゼント貰ってねえなぁ……」
 きらきらきら。
 自分を見つめるアゲハの瞳は降り注ぐ金砂のように期待で輝いているけれど、見つめられたカガリは少し困ってしまう――女の子が好きそうなものがわからない。
「……アゲハ、欲しいものはなんだ?」
「そういうこと本人に聞いちゃいけないんだぞ〜? まあ、聞いたからにはちゃんと俺が欲しいものくれるんだよな」
 考えたが、考えたのだがわからなかったからには直球。仕方がない。だってせっかくだから、彼女が喜ぶものをあげたいではないか。
 しかしニッと笑った彼女が指したのは自分の唇。
「俺、カガリからキスして欲しいな」
 次いで加えられた言葉に、カガリの顔はボッと赤くなった。男女のそういうことについては初心だと、彼女も知っているはずなのに。いや、知っているからか。
「……そういうはしたないことを言うんじゃない!!」
「ぇー……」
 拒否。断固拒否。そんな恥ずかしいことできるわけがない。アゲハへの気持ちは変わらない。正直いってそうするのが嫌なわけではないけれど、恥ずかしい、恥ずかしすぎるのだ。
 だが、男心、女知らず。アゲハはぷーっとほっぺたを膨らませてしまった。「そんなに嫌かよー……」と悲しげな小さな呟きが聞こえる。嫌なわけではない、嫌なはずはない――けれどもそれをわざわざ伝えるのもどうだろうか。
「……アゲハ」
「……」
 呼んでみるが、ぷいとそっぽを向いた彼女は返事もしない。
「アゲハ……」
「……」
 やはり返事はない。カガリは小さくため息を付いて。
(「ため息!?」)
 自分の我儘に呆れたのだろうか、でも、この位いいじやないか、アゲハは首筋に感じる視線に身体をこわばらせる。背中全体が目になったかのように、カガリを意識しているものの今更振り返るのもなんだかバツが悪くて。
 だって。少しくらい、いいじゃないか……。
 特別な日なんだから、少しくらい――きゅ、とアゲハは思いを閉じ込めるかのように握り拳を作った。その瞬間。
 ふわり……。
「!?」
 身体が、浮いた。何事、と首を巡らせてみればカガリの顔がすぐそこにあって、抱き上げられているのだと気づくのに時間はかからなかった。
 優しく微笑むカガリ。お姫様抱っこを羨ましがっていたのを覚えていてくれたのだろう。嬉しい、嬉しいっ。
「す、すまない……!」
「……ん?」
 突然の謝罪は、嬉しさに浸る思考を切り取って。アゲハはカガリの真っ赤に染まった顔を見て、そして自分の顔にも笑みが浮かぶのに気がついた。
イラストレーター名:虎目石