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2人でクロノス大祭

常磐のおひさま娘・ヒスイ
ストレイキャット・ラーセル

■クロノス大祭『ケーキを二人で……あれれ?』

 クロノス大祭のさなか、とある家の食卓。
「にーさん……手加減は無しやで?」
 ヒスイは、勝負の態勢に入っていた。すなわち……『じゃんけん』の態勢に。
 もっとも、その勝負の相手は、多少の苦笑を浮かべていたが。ぶっちゃけ、「この程度で何をそんなに本気に」とでも言いたげに。
 きっかけは、ケーキ丸ごと。ワンホールで購入したので、さっそくヒスイは二人で……ラーセルとともに食そうと思い立ち、それを実行した。
 ところが、その切り分け方があまり良くなく……ぶっちゃけヒスイの切り方が下手だったため、二等分するはずが、二等分とは言い難いサイズに切り分けられてしまったのだ。
 というわけで、公平にじゃんけんの勝敗によって、『どっちがでかい方を食べるか』を決定し、それを実行するに至った。
「いや、別にかまわねーぜ? そっちが好きな方喰ってもさ」
「あかん! こういうのは公平に決めなあかんねん。ほな、いくで?」

 ガツガツッという擬音が聞こえてきそうなくらいに、ヒスイはケーキを堪能していた。
「ま、まあ……負けを認めたわけやなく、譲歩したんや。うん、そうやな」
「あー、ま、そういう事にしとくぜ?」
 ヒスイの言葉にそう返答し、ラーセルもまた甘い塊を口に放り込む。いつしかその甘味が二人を支配すると、言葉は少なくなり、食べることに夢中に。
 勝負の行方は、三回勝負が五回勝負、それが十回勝負にもなったが、結局ラーセルの圧勝。しかしラーセルの提案で、互いの取り分をさらに二等分しそれぞれ交換する事で片が付いた。
「せやけど、このケーキうまいなあ。人気のお店のものだけあるわ〜」
「んー、そうだな。並んで買った甲斐があったってもんだ」
 そう言うラーセルの視線が、自分に注がれているのに気付いた。
「ぷっ……なんだよヒスイ、その顔! めっちゃ笑えるッす〜」
 いきなり爆笑する彼。だが、顔をあげてラーセルの顔を見たヒスイも、思わず吹き出してしまった。
「ぷっ……くくく……にーさんこそなんや、その顔! ぷっ……あははははっ!」
 ラーセルの顔も、クリームまみれになっていたのだ。
 お互いひとしきり笑い転げたのち……すっ、と。ヒスイはラーセルの顔に手をやった。
 そのまま、指先で彼の頬に付いたクリームをぬぐい、それを口元に持って行く。
「ひゃっはははは……あー笑った笑った、って、ヒスイ、どうした?」
「う、ううん。なんでもあらへん」
 ラーセルの顔に付いていたクリーム。指先のそれを、ヒスイはぺろりとなめとっていたのだ。
 なんだか、いつもより甘い。それに……ちょっぴり気恥ずかしい。
「……役得、ってやつやろか?」
「? なんか言ったか?」
「ううん、なんも。それより、はよ続き食べるで?」
 少しだけ。ほんの少しだけだが、自分の頬が赤くなったのを、ヒスイは感じていた。
イラストレーター名:ほてやみつえ