■クロノス大祭『幸福で暖かな夜』
夜の街角のベンチ――白い雪と金色の砂が舞う様を見上げる。綺麗だ、とレイアは細く息を吐き出した。
「寒くない?」
レイアはロイの声に振り返る。
少しの間だけベンチに待たせてしまったレイアに、ロイは一度離れる原因となったカップを手渡した。
「ありがと」
レイアはロイの気づかう言葉に微笑みかける。
湯気が立ち上る珈琲カップを両手で包みこみ、隣に腰を下ろしたロイを見上げた。
「でも、やっぱり少し寒かった……かもしれないわ」
レイアは小さく笑いつつ身を寄せる。寄り添うとロイの温もりが伝わってきて、とても幸せだ。
凍てつく季節にだけ咲く花と金色の砂が舞う景色が幻想的で、とても綺麗で――その光景に再びほうっと息を吐く。
当たり前の事のように身体を預けてくるレイア……そこから広がる体温に、ロイは意識せず口元に笑みを刻んだ。
彼女の視線の先に目を向けて、声なく息を吐くレイアの様子に彼女がこの光景を美しく思っていることは想像できる。
舞う雪と金砂も本当に、本当に綺麗だけれども――。
(「今は隣にいる誰よりも大切な人が一番綺麗だなぁ」)
そんなことを思った。
こういう特別な日にはやっぱり、日頃より更に可愛く見える。
レイアがふと、ロイに視線を向けた。
言葉なく視線を交わし――思うだけで伝わるわけもないけれど、何故か伝わってる気がした。
レイアはロイの温もりを感じつつ、真っ直ぐな視線を受ける。
ロイが言おうとしてるのか、『何か』伝わってくる気がして……寒さの所為なのか、照れてるのか。ともかく、自分でも頬が火照ってくるのが分かる気がした。けれど、視線は外さない。
照れか寒さか自分でもわからないまま、頬を染めるレイアにロイが微笑みを浮かべた。
――言葉がなくても、満ち足りた時間というものはある。
(「この幸せがずっとずっと続きますように」)
レイアはそう思って、隣にロイが居てくれる『今』に改めて喜びを感じる。
幸福で暖かな夜に――クロノスの奇跡に、感謝を。