■クロノス大祭『あっちへふらり、こっちへふらり、楽しいクロノス大祭』
「おめでとう♪ 星霊スピカのぬいぐるみだよ」「わーい♪ 可愛い〜♪」
ぬいぐるみやお菓子が景品のくじ引きの屋台。
デリクが見事スピカのぬいぐるみを当てたのだ。
「良かったですね」
「うん♪」
当てたお菓子を食べながらディーターが楽しげに笑う。仲の良い兄弟がお祭りを楽しんでいるような光景は見る者の心を和ませた。
今日は年に1度のクロノス大祭。街中あちこちに様々な屋台が並び、賑やかなお祭り騒ぎだ。
「ディーたん! こっちこっち! あっちの屋台で売ってるお菓子が美味しそうなんだって〜♪」
満面の笑顔ではしゃぎ回るデリクの顔の横に青色の小動物がふわふわ浮いている。
「ねー、スピカ〜」
デリクに同意を求められたスピカが頷くようにパタパタと尻尾を振った。先程当てたぬいぐるみではなく、こちらは正真正銘本物の星霊スピカ。
デリクは星霊に、たくさんある屋台の中でも特に美味しそうな所や面白そうな所を探させていた。
「ちょ、ちょっとは持って下さいよ……」
両手いっぱいにお菓子や果物を抱えて、あたふたと追いかけるディーター。行く先々の屋台の店主は、ディーターの事をお祭りにはしゃぐ弟と一緒なのだろうと「弟と一緒に食べな」等と云いながら色々とくれたのである。
「あはは♪ ディーたんの戦利品でしょう? ボクはそれを横取りしたりしないよ〜♪」
実際デリクは本物の弟ではないが、義兄弟だ。そのデリクと一緒に食べるようにと貰った物である。横取りも何も一緒に食べるのだから少しくらい持ってあげてもよさそうなのだが。
――くいくい。
デリクの上着の裾が引っ張られた。視線をそちらに落とすと、ディーターの相棒である銀狼のズィルが何か言いたそうな瞳で見上げている。
「ズィル? ……冗談だよ♪ ディーたんがこんなにいっぱい色々持ってたら、スピカが見つけたお店のお菓子食べられないもんね♪」
デリクは、ひょいっとディーターの持つ紙袋を取って「ちょっと持つよ♪」と笑った。
ズィルは『少し持ってあげなよ』そう訴えていたのである。デリクも最初からディーターの荷物を手伝うつもりで少しからかっただけなのだ。
「あ、ありがとう……じゃあ、早く行きましょう。お菓子は早くしないとなくなってしまいますよ」
2人は笑顔で駆け出した。