ステータス画面

2人でクロノス大祭

気高き薔薇の槍姫・ロゼッタ
山杜ノ赫絲・マヨリ

■クロノス大祭『二人とも無事に戻る…それが私たちのエンディング』

 大きな冒険を終えて、新たな目標に駆け出す前の、つかの間のがらんどうな時間を、ロゼッタは一人歩いていた。考えるべき事は色々あるが、疲れた頭をうまく切り替えることができず、ただ吐息は雪の寒さに白く、航跡を頬の横に残していく。
 クロノスメイズの探索を終えたエンドブレイカー達は、三々五々とそれぞれの居場所へと帰っていった。大祭の喧騒に混ざる者、己のホームへ戻る者がいて、しかしロゼッタはそのどちらでもなく、なんとなく廃墟を歩いている。
「……はあ」
 調査が完全に終了した今となっては、迷宮を踏破したという実感が、一歩を踏む度に過去へ遠ざかっていくように感じられて、ロゼッタは何度目かの回想をため息に乗せた。
「こういう気分は、どう表現するべきなのかしらね……」
 よくわからない空虚感の理由に答えを出せず、とりあえず心身を落ち着けようと、ロゼッタは周囲を見回す。運よく太めの柱が残っており、ロゼッタは数度手を押し当てて安全を確認した。
「これで、ようやく休めますわね……」
 ドレスを傷めないように、ロゼッタは膝を落として床を軽く払う。それから体の向きを変えて、柱に背を預けようとする所を、横から誰かに話しかけられた。
「ロゼッタさん……?」
「……マヨリ?」
 そこに居たのは、ロゼッタと同じ旅団に所属しているマヨリであった。二人はお互いに対し憎からず思う所があり、――ロゼッタの顔に、喜びの表情が浮かぶ。
「ロゼッタさん、その……、偶然ですね。こんな所で」
「マヨリ、この偶然はクロノスの悪戯なのかもしれないわね♪」
 そう言ってロゼッタは、迷うことなくマヨリの横へ向かう。あちらの柱の方が背を預けて頼もしく、寄り添うに心地よさそうだ。

 二人が再会したのは壁の無い吹きさらしの場所で、金砂と白雪を抱えた冷風が間断なく二人を襲い続けている。ロゼッタが身を震わせるのを感じたマヨリは、暖を取ろうと星霊バルカンを召喚した。
「これは、まずいですね……冷えてしまいます。レン、リン、おいで」
 小さな火柱から現れた二匹の黒猫は、行儀よく座ってマヨリの号令を待った。
「レンはボクの方に、リンはロゼッタさんの方に。寒くないようにね」
「マヨリ、ありがとうですわ。さ、リンちゃんはお膝の上にどうぞ♪」
 ロゼッタが呼ぶのに答え、リンはその場所を枕に瞳を閉じる。その額を優しくなでながら、ロゼッタはマヨリにいたずらな視線を向けた。
「でもマヨリ、暖をとるならこっちの方が良いですわ♪」
 ロゼッタが手招きで示すのは、自分のすぐ隣、座れば体が密着するような距離にある場所だ。レンを片腕に抱いたマヨリは照れたように微笑んで、その提案を受けた。
「ほら、こちらの手ががら空きですわ、マヨリ」
「あ、ロゼッタさん……」
 ロゼッタの空いた手に、身を寄せたマヨリは己を重ねる。――共にいるこの瞬間をこそ大切なものと記憶して、二人は同じ景色をいつまでも眺め続けていた。
イラストレーター名:アスカ