■クロノス大祭『粉雪の舞うステージの上で』
「雪だな……レインくん……」「ああ、雪だな……」
パーティーからの帰り道、空から舞い降りる白い雪と金の砂を見上げながらレンとレインは言葉を交わす。
互いに多忙を極めて中々会えない日々が続く二人にとって、一緒に過ごす時間は何物にも代え難い珠玉の時間でもある。
だから、その時間を少しでもレインと一緒に過ごしたいと、パーティー会場でもレインに付き合って無理なペースでグラスを傾けたレンの肌はほんのりと朱が差していて、足取りも心なしかふらついていて。
そんなレンに、レインは柔らかな笑みを向けて歩み寄り……。
「レン、ちょっと寄り道しても良いか?」
「……な!?」
尋ねるなり、レインはレンをお姫様抱っこに抱きかかえると、道を外れて森の方へと足を向ける。
「ちょっ、レイン!?」
「着いてのお楽しみだ」
いきなり抱きかかえられて狼狽するレンの抗議は悪戯っぽく笑って受け流して、行き先を伏せたままレインはレンを抱きかかえて森の中を歩いてゆく。
淀みのない足取りで森の中を歩いてゆくレインに、やがてレンも抵抗を諦めて小さくため息をつくと、レインにもたれて目を閉じる。
そうして、しばらくの間、レインは森の中を歩き続け……。
「ほら、ついたぞ」
足を止めて語りかけるレインの言葉に、レンは顔を上げて辺りを見回して……そして、小さく目を見開く。
そこは、冬の森の中にぽっかりと広がった草原で……。
「……!? ここは……?」
訪れるものを包み込むように、優しく降りしきる粉雪の中で見る草原の姿。
それは、どこか二人の故郷であるエルフヘイムを思い出させるものとなっている。
「俺のとっておきの場所なんだ。ここへ誰かを連れて来たのは、レンが初めてだぜ」
「あぁ……綺麗で、懐かしいな……」
その景色を見つめて言葉を失うレンに語りかけながら、レインは彼女を抱える腕にそっと力を込める。
そして、小さく笑みを浮かべたレンも、レインに体を預けてそっと目を閉じる。
レインの腕に篭った熱が、服を越してレンに伝わる。
早まるレンの鼓動が、レインに伝播する。
「レイン……」
「レン……」
降りしきる雪の中で、二人はきつく身を寄せ合い、一つに重なる。
それを観ていたのは、故郷に似た森の木々のみであった。