■クロノス大祭『ひとひらの夢夜を奏でて、』
色とりどりの看板が立ち並ぶ、クロノスバザールの出店たち。この日限りの珍しい品物や食べ物、食欲をそそる香りにきょろきょろと目映りはするけれど――一番目を引いたのはやっぱり彼女だ、なんて。
「やぁジュナちゃん、久しぶりだねぇ」
「ウメさんっ!」
ウメが声をかけると、ジュナイツは途端にぱっと顔を輝かせ走り寄ってくる。
とある小さなバーで飲み友達として意気投合したのが出会いだった。最近はあまり会えなくなっていたけど、互いの元気そうな顔を見てほっと一安心。
「その白いコートも似合ってるねぇ」
「うふふ♪ ウメさんがあったかくしておいでって言って下さったので、気合い入れてモコモコして参りましたの!」
「いやぁ、僕なんて寒さに負けて腹巻してきちゃった」
「まあ、腹巻きもあったかくて素敵ですわー!」
これを褒めて貰えるとは思わなかったよと、ウメは照れ笑いを浮かべる。けれどそんな彼女の真っ直ぐさが、いつもウメに安らぎをもたらしてくれるのだ。
「じゃあ、そんなモコモコのジュナちゃんには……あれを買ってあげちゃおうかな」
ウメが指さした先には、『ヒュプノス印のもこもこ綿あめ』と書かれた屋台。
美味しそうですわっと瞳をきらきら輝かせ、並びに向かう彼女はまるで子供みたいだ。ウメものんびりと後をついていく。
購入した綿あめを一口頬張って、ジュナイツは満面の笑顔。
気に入ったかな?
そう聞こうと覗きこんだ顔には、綿あめがついていて。
「ウメさん、どうしましたの?」
思わず少し吹き出したウメを、ジュナイツは不思議そうに見つめ返した。
「ついてる」
そんな彼女の口元に軽く指を滑らせ、綿あめを優しく拭ってあげる。
「まあ……わたくしったら、お恥ずかしい所をお見せしてしまいましたわ」
そう言いながらもジュナイツはやはり楽しそうで、見ていると頬が緩んだ。
ウメの眼鏡の奥の穏やかな瞳を見ると、ジュナイツもいつでも心がほわりと暖かくなる。
「ね。腕組んで歩きましょ! そっちの方がきっと、もっとあったかいですの」
「ふふ、そうだね」
寄り添ったまま賑やかな表通りをあちらへ、こちらへ。
次は香ばしいたれの匂いがする焼き鳥を買った。ふたりでそれをはふはふと頬張りながら、美味しいと顔を見合わせる、その時間がとても大事で、楽しくて。
あのね。ジュナイツが言った。
「あったかくて美味しくて、優しいウメさんもいて。わたくし今、すっごく幸せですの!」
こぼれる笑顔に僕もだよ、と微笑み返し、ウメはジュナイツの頭を優しく撫でた。
「こ、子供じゃないんですから!」
「はは、そうだねぇ。ジュナちゃんはステキなお姉さまだ」
「もう……」
優しくて心癒される、大好きな人。
ほっとけなくて、けれどそこが可愛くて、世話を焼きたくなる大切な人。
会える時間がなくたってそれは変わらないけれど、今はこの夢のような一夜が、少しでも長く続きますようにと――そう思う。