■クロノス大祭『ぬくもりはマフラーで包んで』
冬の風は、時に身を切るような冷たさを纏っていて……。だからこそ、暖かさに幸せを感じられたりもする。
「このマフラーと手袋あったかいね。シェミアちゃんの手もあったかくて……んと。うれしいの!」
マフラーに手袋に、そして大事な人の手。
そんな暖かさに包まれて、嬉しそうに笑うトモヤと手を繋いで町を歩きつつ、
(「この格好はかなり恥ずかしいかも……」)
と、シェミアは少し頬を赤くする。
なにしろ、2人を包んでいるのは一本の長いマフラー。
一緒のマフラーに包まっているから動きにくくて……自然と密着状態になる。
そうして寄り添って歩く自分たちは、周りからなんて見られているのかと想像するだけで顔から火が出そうになるけれど……。
(「でも、あったかい…‥」)
手を握り直して、シェミアはほっと息をつく。
こうしてトモヤと寄り添って、触れ合った手から彼の体温を感じていると、心が温かくなってとても安心できる。
2人だけで過ごすのなら、ずっとそうしていたいくらいに。
(「……このままお祭りに行くことになるとは思わなかったけど……」)
賑わう町並みの中で、シェミアは恥ずかしそうにうつむいて……。
そして、深呼吸して顔を上げる。
今日は年に一度のクロノス大祭。
せっかくのお祭りの日なのだから、今日くらいは思いっきり甘えるのもいいかもしれない。
「ね、トモヤ。あそこで売ってるココアが飲みたいな……あと、あそこのリンゴ飴と……」
「ココアとリンゴ飴ね。ぼくも食べるから一緒に買いに行こ♪」
ちょっと思い切ってシェミアが露店を指差してトモヤの手を引けば、トモヤも笑顔で彼女の手を取って歩き出す。
トモヤに手を引かれて人波の中を通り抜けながら、シェミアはそっと笑みを浮かべる。
一緒のマフラーに包まって町を歩いてゆくのは恥ずかしいけれど、それ以上に……。
「……トモヤと一緒だと、楽しいね……」
「ぼくもシェミアちゃんと一緒だと楽しいよ♪」
「ほんと……? ……うれしい」
そう、シェミアが繋いだ手に視線を落として小さく呟けば、トモヤは嬉しそうに笑顔でこたえてくれる。
その笑顔に心が満たされるものを感じながら、シェミアはトモヤを見つめてはにかんだ笑みを浮かべる。
「トモヤ…あのね……」
それは、普段だったら恥ずかしくて言えない言葉だけど……。
白い雪と金の砂が降り注ぐ幻想的な空の下で、祭りの賑やかさに包まれた今なら、普段言えないようなことも言えそうな気がする。
「……大好きだよ……わたしの、王子様……ずっと、一緒に居てね……?」
そう言って彼を見つめるシェミアに、トモヤは一度目を大きく瞬かせて、
「シェミアちゃんもぼくと一緒いっっっっぱぁ〜い大好きだもん! うん。王子様がんばるの! シェミアちゃんもずっと一緒にいてね?」
「……うん!」
満面の笑みでこたえるトモヤに、シェミアも大きく頷いて手を握り返すのだった。