■クロノス大祭『Facta, non verba.』
夜の街中は色んな輝きを見せるが、今回はクロノス大祭だけあってより一層彩りを見せていた。一歩進むたびに遠ざかっていくその景色を眺めながら、お揃いのマフラーをたなびかせて進むキールとトラハ。
(「折角のお祭りだ、楽しまなければ損だよね……ん?」)
高台目指して進む道中は少し寒いのだろうか……隣にいる彼女が、少し震えている気がした。
「トラハ君、ちょっと手を出してもらえるかな?」
「……別に良いけど」
普段から熱をおびる戦場と違う所為か、自分の身体から熱が逃げているような気がする。トラハは言われるままに彼に向かって手を差し出した。
「……!?」
差し出した手を握られ、思わず漏れる驚きの声。
握られた手から伝わる彼のぬくもりに、冷えた身体がどんどん温まっていくのが解る。
「……ずーっと昔、同じ事をやってもらった時に温かかったのを思い出してね」
その時の事を思い出しながら笑顔で語るキール。
(「うーん。咄嗟にやってしまったが、いきなりこういう事して大丈夫だったかな?」)
温める為に思わず握ってしまった訳だが、いきなりだったので嫌な気分にさせてしまったかもしれない。
お互い年の割には大人過ぎるのだろう。彼女の表情からはどう思っているか読み辛く、キールは少し不安な気分になる。
「……嫌だったかな?」
すぐに言葉は出なかったが、それは嫌だったからでは無い。驚きもあるが、少しでもぬくもりを感じようとして、発する言葉を失っていただけだ。
「……いや、充分過ぎる。充分過ぎる位、温まるよ……」
どう答えるべきか迷ったが、トラハは素直な感想を述べる事にした。
何だか一本取られた気分だけど、こういうのも悪く無い気がする。
「それは良かった……と、そろそろ目的地が見えてきたかな」
目的の場所へと辿り着いた時、何時の間にか二人の距離が近づいていた事に気付くキール。だが今はそれが当たり前な気がして、離れようとは思わない。
「……良い景色だ」
足元に見える町並みを見下ろし、トラハは感じたままの感想を述べる。
「……下もそうだけど、こちらも結構良い眺めだよ」
彼につられて顔を上げれば、星々の輝きに彩られた夜空が。
地上の星々と天空の星々。二つの輝きに包まれたその場所はまさに二人を祝福するステージの如し。
その美しい光景を二人で見る事ができた喜びを感じながら、クロノス大祭の夜は過ぎていった……。