■クロノス大祭『二人だけのクロノス大祭』
くつくつと、火にかけたスープが柔らかく煮立っていく。小皿で味見をし、調理を続けるリンは、作り終わったオードブルと共に、恋人を待っていた。二人っきりになるために、部屋の準備も万全だ。リボンのチェーンも天井に張り巡らせて、テーブルクロスも新品を用意した。
窓の外、ラッドシティには、約束の時間へ進む時計が見える。金の砂、白の雪を透かして見る光景のどこかで、待ち人は急いでいるのだろうか。
かつかつと、慣れた足音が乾いた音を立てる。パーティへ向かうアムロックが提げたトランクには、ホストに合わせた美味しいジュースと、プレゼントが入っていた。
装いは、自分のコレクションの中から特別なものを選んできた。違いに気づいてくれるかが少し楽しみで、振り向く通行人も気にせず、街道を上がる。
じきに会場の窓が見えてきた。そのカーテンにちらと映る影は彼女だろうか、僕のことを心待ちにしているのだろうか。
「ようこそアムロック、私たちのパーティへ」
「お招きにあずかり光栄です、リン」
玄関先、リンは深々と頭を垂れ、アムロックはスマートに一礼を返す。アムロックの払う肩からは雪の花が散り、すぐにリンの部屋の温かさに消えていった。
「すごいね。いつもの部屋とは見違えるようだよ」
アムロックはコートを下ろし、思ったことを素直に口にする。コートを受け取ったリンは、いつもと違うデザインと香水に気づき、コートを吊るしたハンガーを見上げて言った。
「一張羅、か。ある所にはある物なのだな」
「おや、リンにはそれが解りますか。さすがに、いつも見ている方は違う」
「……料理は、こちらにできているぞ。早く来い」
「ええ。折角の手料理、冷めてしまっては惜しいですから」
苦笑し、リンの招く食卓へとアムロックは進んでいった。
パーティも半ばを過ぎた頃、空いた器と瓶を前にしたアムロックは、さて、とプレゼントを取り出した。
「僕からリンへプレゼントです。手製ですので、ちょっと不恰好で申し訳ないですけどね」
「あ、私も、アムロックにプレゼントを用意している。喜んで貰えると……嬉しい」
二人はプレゼントを交換して、それぞれの思いのこもった防寒具を身につけた。
リンの手には、少しごつごつした黒い手袋がつけられている。でも、サイズに間違いはなく、はめた指先に、これ以上は無いと思える温かさが宿った。
アムロックは黒と白のチェック柄のマフラーを掛けてみて、おや、と首をかしげた。長身の彼女にとっても、少し長いかなと思わせるそのマフラーに、アムロックはしかし微笑を浮かべた。
「アムロック……?」
揃えた手を眼前に挙げて、じっと見つめていたリンの肩に、ふわりと、アムロックがマフラーを回す。抱き寄せて、抵抗の無いその体に、アムロックは自分の思い付きが、思い上がりでもお節介でもない事を知った。
マフラーに沈むリンの頬に、ほんのりと赤い色が浮いて、少しだけ笑った。