■クロノス大祭『きみのぬくもり。』
「ルーファス、ほら、見てくださいっ!」木の実でできた、くりくりの赤い目。ぴんと伸びた葉っぱの耳。そして、丸くて愛らしい、雪の体。
スズカの可憐な掌の上に、ちょこんと、小さな雪兎が乗っている。
こちらを覗きこんでくるルーファスに、スズカは「可愛いでしょう?」と問いかけた。
鈴の音のようなその声に、ルーファスは瞳を細めて、頷き返した。
――お祭りを楽しむ人々の輪から、そっと抜け出して、二人きりの時間を手に入れた。
輝く黄金の砂粒と、細やかな白い雪が、交じって空から降ってくる。
クロノス大祭の日にしか見ることができないという、幻想的な光景に、スズカの心はどうしようもなく浮き立っていた。
けれどきっと、こんなにも心が弾む理由はそれだけではない。
傍らに、愛しい人がいてくれるから、なおさらなのだ。
姿は愛らしい兎も、やはり雪の塊ではあって、スズカの熱を奪ってゆく。うきうきとした気持ちのせいで忘れていた冬の寒さが、帰ってきた気がした。
名残惜しそうに、そっと雪兎を置いたスズカの手はひやりと濡れて、ほんのり赤くなっていた。
ほうっと、手に吐いた息は白い。
やっぱり、寒いですね。そう笑って振り返ろうとした時、「鈴」と名を呼ばれた気がした。
そのまま力強い腕に引き寄せられて――気が付けば、スズカは、ルーファスのコートの中に包み込まれていた。
「こうすると暖かいな」
ルーファスの声が、耳元で聞こえる。
振り仰げば、吐息がかかりそうな位置に、彼の端正な顔があった。その笑みは、こうすることが当たり前とばかりにとても自然。
対するスズカは、まるで言葉を忘れてしまったようで、返事もできなくて。鏡を見ずとも、自分の顔が真っ赤に染まっているのがわかった。
銀の髪がひとふさ、さらりと零れて、そんなスズカの頬を撫でる。
冷えた体が、背から伝わるルーファスの体温で、ゆっくりとぬくもってゆく。
暖かく、力強いぬくもり。まるで、小鳥が親鳥の羽にくるんでもらっているような、心地よい安心感。
トクン、トクンと、いつもより少し早い自分の心音と、穏やかなルーファスの心音が重なって聞こえるような気がした。
輝く黄金の砂粒と、細やかな白い雪は空から降り続き、冬の寒さが二人を包む。
けれど、こうしていれば、暖かい。
二人はそのまま、お互いのぬくもりを愛おしむように、しばし立ち尽くしていた。
――可愛かったのは果たして、雪兎の方だろうか、それとも……。