■クロノス大祭『クロノス大祭での思い出』
「フェリシスさん」今日は待ちに待ったクロノス大祭。
雪の舞い降りる街に婚約者のフェリシスと出かけたリェルは街角で立ち止まり、先を行く婚約者を呼び止める。
「あの、その格好――」
「……ええっと、どう、かな?」
「そう、ですね……」
フェリシスの問いかけに、リェルが言葉に詰まったのも無理はない。
一見してウサギの仮装だとは分からないほど露出度の高い衣装は、もはや紐。
街中で、しかも雪の降っている時にする格好ではない。
――もっとも、フェリシス自身も気に入ってこんな服(?)を着ているわけではない。
本来恥ずかしがり屋なフェリシスなのだが、リェルが『えっちな格好をした女の子が好き』だと勘違いしているため頑張っているのだ。
(「少し寒いし、それに男の人達の視線がいっぱいあるけど、リェルのためだもん」)
恥ずかしさと寒さをこらえ、大好きなリェルの為にきわどい格好をしているフェリシス。
なのだが。リェルの方は、その格好が婚約者の趣味だと思っているようである。
(「けど、いくら好きで着ているとはいえ寒いですよね」)
「フェリシスさん」
リェルは、自分のマントの中へ入るように呼びかける。
「……ん、リェル、ありがとう」
リェルの好意が嬉しく、思わず抱きついてしまうフェリシス。
少し恥ずかしかったものの、緊張や興奮でいっぱいになっている彼女は、人の目が周囲にあることをすっかり忘れていた。
「うふふ、あたたかい」
「ちょ、ちょっとフェリシスさん、当たって――」
「ふぇ? あっ、きゃぁぁぁっ!」
リェルのその言葉で理性を取り戻し、ようやく人前であることを思い出したフェリシスは、半ばパニック状態になってしまう。
「フェリシ……んぷ」
「リェルぅ」
何とか宥めようとしたリェルだが、強く抱きついてきた婚約者の胸に顔を埋められて息が出来ない。
「――あれ? リェル、どうしたの?」
フェリシスが自分の状態に気がついた頃には、リェルはほぼ意識を手放していた……。