■クロノス大祭『Eine Nacht von Teepartei』
「うーん、やっぱりそれなりには寒いね……」「防寒してきて正解だったな」
地面にシートを敷きながら、シュナイエンとサクヤは顔を見合わせた。時刻は既に深夜を回っている。冬の寒さが厳しい時間帯であった。
「お、来た来た」
「何か食べれるのあったかな……」
ここは自宅近くにある空き地。その一角を拝借し、2人でのんびり夜のお茶会を開くのだ。にゃあ、と2人の元に空き地の住民――野良猫達がやって来る。
「ビスケットでも食べるか?」
「猫、食べれるの?」
「これなら大丈夫だろ」
サクサク、と空き地の住民達がビスケットを頬張るのを眺めつつ、サクヤとシュナイエンも持ってきたお茶とお菓子を広げ始めた。そんなことをしていても、猫達は基本的には彼女らに興味を示さない。もはや、2人の存在を当たり前のように感じているからだ。
「サクヤ、これ美味しいよ?」
「うん、確かに上手い」
チョコレートを口に入れ、シュナイエンは水筒に入ったお茶をカップに注いだ。それをそのままサクヤに渡す。
「どうだった? クロノスメイズ」
ああ、とシュナイエン。自分の分のお茶を注ぎながら、彼女は笑った。
「今回もなかなか凄かったなぁ、ちょっと危なかったのよね、私」
「ははっ、実は俺もなんだ」
暖かい、湯気の上がるお茶を啜りながら、サクヤはシナモンクッキーに手を伸ばす。
「うん、2人とも無事で良かったよ。お祭りはお祭りで凄かったね」
「んー、カップルだらけだったな」
「そりゃ、ああいうお祭りだからね。カップルが集わない訳がないよ」
「ははは……まあ、良いよな。ああいう雰囲気の場所も」
サクヤとシュナイエンはのんびりと空を見上げ、2人同時にカップに口を付けた。カップルの集う、時計塔を思い浮かべる。
「綺麗だったね」
「あれ金の砂、だっけ? それに雪も降ってて……」
「時計塔は不思議な変化してみたり、面白いわよね」
「見てて飽きなかったな」
今は雪が降っているわけではない。雲も晴れ、空には美しい星空が広がっている。クロノス大祭独特の風景も好きではあったが、いつもと変わらぬ――若干の違いはあるのだろうが――夜空も2人は好きだった。
「あ! こらこら……」
「ふふふ……」
サクヤの膝の上に猫が乗っている。その様子を見て、シュナイエンは楽しげに笑った。猫が慣れ過ぎるのも、困りものかもしれない。
「……温かいから良いか」
「動物は体温高いからね」
シュナイエンは小さなチョコレートケーキを口に運んだ。
「俺もそれ欲しい!」
「自分で取りなさいよ」
「猫が乗ってるから無理だって!」
そういう返事が来るのは分かっていた。シュナイエンはサクヤの皿を取り、何個かケーキを取り分けてやった。当分、膝の上の猫は離れないと考えたからだ。
「…………」
冷たいが、優しい風が2人の髪をなびかせる。楽しく会話をしたり、しなかったり。それでも同じ時を過ごす――これこそが、彼女らの休日の楽しみ方なのだ。