■クロノス大祭『煌く夜に舞う雪は』
ふわりふわりと空を舞うは金色の砂と純白の雪。触れると消えてしまうけれど、辺り一面に降り積もったそれらは、消えることなく街中に輝きをもたらしている。天を仰いだガヴォットは、その輝きに眩しさを覚えながらも柔らかく微笑む。手を繋ぎ、隣を歩いているジンへとそのまま視線を向ければ、それは絡んで笑みを返された。
ゆっくりと景色を楽しみながら歩んで、最後に向かったのは大きなモミの樹の下で。綺麗に飾り付けされたその樹は、金砂と雪をまといキラキラと綺麗にきらめく。
「ガヴォット」
「ん?」
耳へと届いた心地のいい声。あまりの樹の美しさに見とれていたガヴォットだが、名を呼ばれた事でそっとジンへと視線を移した。
「楽しいか?」
「楽しいぞ」
そして、優しく問うてくる彼に嬉しそうに言葉を返して。ゆっくりと2人で過ごせる時間はとても幸せで、楽しくてたまらない。ぎゅっと、その思いを伝えるかのように、ガヴォットはジンの手を握りしめる。
吹き抜けていった風が、樹の葉と2人の髪をサラリと揺らした。
「ほら、雪が髪についてるぞ」
ジンが再び声を発したのは、揃ってモミの樹に視線を戻し、少しの時間が経ってからの事。雪を払おうと伸ばした手が、ガヴォットの柔らかな髪へと触れる。けれど触れてしまった金砂と雪はすぐに溶けてしまい、それを払う事のなかったジンの手は、そっと彼女の頬へ、そして肩へと下ろされた。
「……ジン?」
絡まったままの視線。ガヴォットがそれを逸らすなんてできるわけもなく。繋がれていた手はいつの間にか離されていて、ジンのそれはガヴォットの腰を引き寄せる。
そっと、唇が重なった。
甘い香り。ドキリと高鳴る心臓。行き場を失ったガヴォットの手は、ギュッとジンの服を握りしめる。数秒だったか、数十秒だったか。名残惜しいと思いながらも離れ、瞳を開く。その瞬間……目の前に見えたガヴォットの表情は反則。少し頬を赤らめ、視線が合うと同時に恥ずかしさからかうつむいた姿が可愛らしく、ジンはギュッと彼女を抱きしめた。温かさに、彼の匂いに安堵して、ガヴォットもまたジンの背中に腕を回す。
好きだから、傍にいたい。離れたくない。
このまま時が止まればいいのに、と。本気で思った。
――ずっと、ずっと幸せにしてくれるよね? なんて、いつもと違う口調で聞いたとしても。当たり前だぜ……と、ジンは笑顔でそう返してくれるだろう。
勇気を出して聞いてみようかと、心地のいい空間からガヴォットが顔を上げる。けれど、そっと彼女の耳元へと近づくジンの顔。――先を越されてしまったかもしれない。
「ガヴォット……これからもずっと、幸せにしてやる」
幻想的な夜空と街を埋め尽くす、きらめく黄金の砂と純白の雪。
耳元でささやかれた時のジンの声と、嬉しすぎる程の言葉。
これはきっと、一生の宝物だ。