■クロノス大祭『 Les Idees heureuses 』
綺麗な夜空だった。特別な夜を飾るに相応しい、純白の雪と黄金の砂が舞う幻想的な空間。
そしてその幻想的な空間にいるのは2人の男女。
他には誰もいないその場所で、ギルニーとロゼルは一緒に歩く。
最初は無言、けれどロゼルがそっとギルニーに身を寄せると口を開いた。
「ねえ、白雪と金砂が交ざり合って凄く綺麗よね?」
天から零れ落ちてくる純白と黄金。大好きな雪が一番輝き美しい日はきっと今日だろう。だからこそ、この光景を余さず瞳に焼き付けようとする。
ただ焼きつけるだけではなく、大切な相手と共にいるというこの瞬間も確かに自らの中に刻み込もうとするように相手へと言葉を紡ぐ。
「ああ……そうだな……」
だが、応じる相手の声はそっけないもの。
少しだけ不機嫌な様子でギルニーはおろした髪を弄っている。今日時間が無く、いつもの髪形をセットすることができなかった。そのせいで、そればかりが気になって周囲の景色に意識が向かない。
だが、実はそんな普段と違う雰囲気にロゼルは鼓動を速めてしまっていたのだけれど、ギルニーは知る由もない。
「……ふん」
掛けられる声に、少しだけ視線をロゼルに向ける。寄り添われていたことに気付く。無愛想に同意を返していたが、そんな景色よりも寄り添う相手の方が綺麗だと思う。
今日の為にめかし込んで来たのだろう。そんな彼女を見ている方が間違いなく良いに決まっている。
「もう……私はあなたとこうして同じ色を感じて、同じ刻を過ごしている。それだけで幸せなのに……」
拗ねたような声がギルニーの耳を叩く。どうも、考えたことは伝わっていなかったようだ。もっとも、そのまま伝わっていたら流石に恥ずかしくてしょうがないのだけれど。
だが、このまま拗ねさせているのは良いことではない。
「……俺もだよ」
視線を逸らしてしまいながら、小さな声でそう告げた。つい言ってしまったが、どうせなら聞こえなくてもいいと思った程の小さな声。
けれどここには2人しかいない。どんな小さな声でも、それを聞き逃すはずが無い。
恥ずかしそうにしつつも、こちらを見るロゼルの顔を見れば聞こえてしまったことは間違いが無い。おろした髪で目を覆い、自らの表情を隠す。
「ありがとう。……また来年も、2人で雪を見られると良いわね」
頬を薄く染め、穏やかに微笑みかける。聞こえているかどうかはわからない。けれど、この気持ちは確かに告げておきたかった。
来年も、そしてまた次の年も……隣にいる彼と一緒の時間を刻んでいきたい。
静かな特別な夜に、2人は一緒の時間を刻む。大切な相手と過ごす、穏やかな時間。願わくば、この幸せがずっと続きますように。