■クロノス大祭『聖夜の逃亡者』
ラッドシティ。その闇を探る潜入調査に失敗し、犯罪者として追われる身となってしまったマリス。捕まれば、大好きなナチにもう会えなくなる。
その前に、悔いを残さないように……。
マリスはそう考え、ナチを時計塔の前に連れ出し、性急な愛の告白をする。
「もし、今日を最後に大好きな人に会えなくなるとしたら、ナチはどうする? ――ボクなら、こうするよ」
話の意図も掴めぬままのナチに、マリスは不意打ち気味に口付け、少年の唇を奪う。
驚きに目を見開き、そのまま固まってしまうナチ。
「いきなりごめんね。実はボク……っ、!?」
長い長いキスの後、打ち明け話をしようとするマリスを、ナチは軽いデコピンで遮る。
突然の衝撃に驚き戸惑うマリスに、少年は優しい瞳を向ける。
「最近、何か悩んでたのは気付いてたよ。あの時の姉さんと同じ目をしてる。……でも大事なことなんだろ? だから事情は聞かない」
『相棒』が示してくれる、無言の信頼が嬉しい。
(「でも――」)
それは、恋愛感情とは違っていた。
「ヤケになってこんな事しちゃダメだよ。そういうのは、将来の恋人に取っておかないと」
柔らかく微笑み、ゆっくりとマリスの頭を撫でるナチ。
彼にとって、マリスは腐れ縁の――あくまで妹分のような存在。
かつて属していた犯罪組織から逃げ出す時、勝手に付いてきて押しかけでパートナーになったマリス。
いつもラブラブオーラ全開でいちゃついてきて、扱いに困る妹分。
大切な家族ではあっても、異性として意識する事は無い。
(「でも、でも、ボクは――!」)
だけどマリスにとってナチは、誰よりも大事な、最愛の人。
「そろそろ行かなきゃ。……でも、これだけは言わせて。ボクにはナチしか見えないよ。いつか振り向かせるまでは、絶対に死ねない」
羽織ったマントのフードをかぶり、走り去るマリス。
その小さくなっていく後ろ姿をナチは優しく、そして少し寂しげにただ見送るのだった……。