■クロノス大祭『【家族】の時間』
クロノス大祭を家族で過ごしても問題は無いと思う。どこに行っても見せつけら……いや、騒がしいだけだ。
遅くまで出歩くのも一つの形だが、リアルには静かな方が性に合う。
(「大切な『妹』への贈り物は調達済みだから、今日はゆっくり過ごそうか」)
言ってしまえば……留守番では無いが家族が総じてどこかへ行ってしまった、ということもある。
ピアノには兄弟(として育った人)が何人かいる。
親も合わせると、賑やかで楽しい家族だ。
今日はクロノス大祭で、家族でお祝いをすると思って楽しみにしていたのだが、みんなどこかへ出かけてしまった。
(「……ちょっと寂しい」)
ピアノが少しばかり落ち込んでいるとリアルの声がした。
誰かがいるというのは、良い。
しぼんだ気持ちも復活して、ピアノはリアルと一緒にソファーに座って、お話したりお茶したり……二人で時間を過ごした。
「静かな家の中も悪くはないな……偶になら」
賑やかさに慣れていると寂しく感じるだろうが……それはそれで、違った楽しみ方もある。
そう思って呟いたリアルに、ピアノはほわほわと頷いた。
「お出かけしなくても……家の中でも十分幸せな気持ちになれるよね」
ピアノの言葉に「そうだな」とリアルは同意を示す。
――家族としての絆は優しく、強いけれど。
同意を示しながら、リアルは思った。
――ずっと今のように幸せな時間を過ごせるとは限らない……。
(「何時かピアノにも好きな人が出来て、その『誰か』と過ごす時間が増えていくのだろう」)
「早くみんなも帰ってくると良いのにね?」
いつも大人数の『家族』で、二人きりでは少し寂しいのか、ピアノが呟いた。
(「……それまでは兄として僕がお前を寂しさから護ってやる」)
リアルはその思いのまま、ピアノの頭を優しく撫でる。
ピアノは甘える猫のように目を細めた。
(「……けれど」)
そうやって、素直に甘えてくる妹。大切なピアノを見つめ、髪をすきながら……思う。
(「――いっそ家族でなければ良かったと思う事も……」)
「……どうしたの?」
ピアノの問いにリアルはハッとした。
「いや、何でも無い」
髪を触れていた指先を離し、リアルは頭を振った。
用意していたプレゼントを差し出す。
「ほら、プレゼントだ。――クロノス大祭おめでとう、と言う所だな」
リアルが差し出したプレゼントに、ピアノはもともと大きな目を丸くした。
ぱっと笑顔になる。
「クロノス大祭おめでとう。ボク、嬉しい。……ありがとう」
感謝の言葉と、その笑顔。
リアルはピアノに、「いや」と頭を振った。
「おかわりどうぞ」
ティーポットを手にして、ピアノは言う。
「ありがとう」
リアルが礼を言うと、ピアノはほんわか笑顔を浮かべ、リアルのカップにお茶を注いだ。