■クロノス大祭『買い物帰りに』
金色の砂が舞い降りてくる、ラッドシティの一角。大量の荷物を大切そうに抱えたリューフュザリットと、荷物は荷物でも食べ物ばかりを手にしたシータが、のんびりと歩いていた。旅団で知り合い、親しくなった2人は仲良く買い物に訪れていた。今は、その帰りなのである。
「疲れたのー。ちょっと休もー?」
「そう、だな……じゃあ、あの噴水の側とかどうだ?」
「うん、あそこで良いよ!」
リューフュザリットは噴水の元へと小走りで向かって行った。縁に荷物を置き、自身も傍に座った。シータも、その隣に座る。
「珍しいものがあったから、沢山買っちゃったの」
袋の中から、リューフュザリットが取り出したのは可愛らしいうさぎのぬいぐるみ。もふもふの柔らかい素材で出来ており、彼女もそれを凄く気に入っているようだった。その隣で、シータはもぐもぐと焼き芋を頬張っている。
「シータくんは何買ったの?」
「焼き芋に、肉まんに、ケーキ……形に残る物も買っときゃ良かったかな……」
話によると、シータはラッドシティの出身だという。辺り一面のお祭りムードを見て、彼は懐かしいな、と呟いていた。昔は、祭りを楽しむ程の心の余裕は無かったそうだ。
「賑やかだったな……祭り」
そんな彼の様子は、何故だか少しだけ嬉しそうに見えた。今回はしっかりと祭りを満喫出来たのだろう。リューフュザリットは、ぱたぱたと両足を揺らした。
「……それにしても焼き芋、リユも買えばよかったなぁ。おいしそう」
お腹を押さえ、リューフュザリットは苦笑いしていた。そういえば、食べ物ばかりを買っていたシータとは対称的に、彼女は食べ物を買っていない。お腹がすいているのかもしれない。
「食べるか?」
「良いよ、何か……飢えてるみたいで恥ずかしいのよ」
「遠慮しなくても良いぞ?」
「いらないのー!」
この場面でお腹が鳴ってしまうと恥ずかしい。そう思ったのだろう。ぎゅ、と持っていたぬいぐるみをお腹に押し当て、リューフュザリットは笑った。
「……ん?」
頬にひんやりとしたものを感じ、シータは空を見上げた。その隣で、リューフュザリットが嬉しそうに目を輝かせた。
「わぁ、雪降ってきたのよ。金と白で綺麗なのー!」
お腹にぬいぐるみを押し当てるのも忘れ、リューフュザリットは空から落ちてくるものを、必死に見つめていた――それは金色の砂と純白の雪が合わさった、幻想的な景色。
「あ、ホントだ」
いつの間にか、リューフュザリットは立ち上がっており、空に向かって金と白を掴もうと手を伸ばしていた。微笑ましいな、とシータは彼女を見つめていた。
「そうだ! ねえねえ!」
くるり、とリューフュザリットが振り返った。彼女は、はにかむように笑っている。
「シータくん、今日は誘ってくれてありがとなの! また一緒にお買い物しようね?」
「……おう」
頷き、シータもつられるように微笑んだ……こんな祭りの日も悪くない。そう、思いながら。