■クロノス大祭『クロノス大祭…フィナーレ』
日付が変わる少し前、大祭もフィナーレを迎えようとしている頃、その様子を高い建物の屋上で眺める二つの影があった。「ふふ、いいでしょー♪ ここ、一番きれいに見える場所なんだよ?」
キリナは座っていたエリックの膝上へと乗っかると、そうエリックへと微笑みかけた。
「本当ですねぇ……誘ってくれてありがとうございます」
エリックも心底嬉しそうに秘密の名所を教えてくれたキリナへと微笑み返すと、自分の膝上に座る彼女の頭を優しくなでた。
もしこの場所に二人以外の人間が居たならば、エリックの女性のような顔立ちから、二人を仲睦まじい姉妹と間違えた事だろう。
キリナとエリックは職場で出会った友人同士であった。物心つく前に両親を亡くし一人生きてきた彼女をエリックは大切に守りたいと常日頃から想っていた。
彼だけではない、彼の妹も彼女の事が好だし、母にとっては弟子でもあった。エリックの一家に愛されている彼女を、彼女さえ望めばいつか家族として迎え入れたいと考えている程だ。彼女もまたエリックには好意を抱いており、エリックの家族とも仲良しである。
しかし過去両親を失った後に養父の元で辛い生活を送っていたキリナにとって家族というものにまだ抵抗があるようで、その申し出を受けるのを躊躇しているように感じられた。
エリックも彼女の事情はある程度把握しているつもりである、無理に家族になって貰おうとは思ってはいなかった。
(「例え家族になれなくても……ガーディアンじゃなくても、守ろう。妹みたいに可愛くて大切なこの少女を……少なくとも本気でこの子を愛して守ってくれる人が現れるまで……」)
黄金の砂がキラキラと降り注ぐ中、エリックは時計台に夢中になっている彼女の後ろから腕をまわすと、優しくぎゅっと抱きしめた。
「どうかしたの?」
不思議そうに自分を見上げる少女の顔に、エリックはハッとするとあわてて時計台へと視線を戻した。
「ううん、なんでもないんですよ……あっ、見て下さい、時計台から綺麗な光が……!」
「わぁ……!」
口には出さない誓い、少女は果たしてそれに気が付いているのか。少年の膝の上で祭りのフィナーレを楽しげに微笑んで眺めていた。