■クロノス大祭『想い寄せ合う夜』
しんしんと雪が降り積もる、町外れの森の近く。すでに華やかな時間は過ぎた深夜。人はすでにおらず、静まり返っている。
昼間には子供たちがはしゃいで賑やかだったであろうこの場所でも、降り積もる雪によってその痕跡はすでに欠片も残っていない。
そんな時間にようやくグラムとヘイゼルは会うことができた。
少し寂しげな表情を浮かべていたヘイゼルは、グラムの顔を見て頬を綻ばせる。この雪のように積もっていった心の中の寂しさなど、どこかに飛んで行ってしまった。
グラムもまた、ヘイゼルの笑顔を見て癒される。会えなかった時間、辛かったのは自分もまた同じ。
「……寒くはない?」
「大丈夫ですよ」
会えた嬉しさにぎゅっと身を寄せ、彼女は寒さが苦手なグラムを想って問いかければ、彼も身を寄せて笑みと共に返す。
そこからぽつり、ぽつりと少しだけ交わした言葉は自然と途切れる。互いの体温を感じ合い、通じ合う二人に言葉は必要ない。
静かに降ってくる金の砂と雪の幻想的な風景を見上げていて、ヘイゼルはふと、少しぎこちなかった昨年の今日に交わした言葉を思い出し、今の状況を思い返して幸せそうに微笑んだ。
そんな彼女に気付き、グラムが何か? と問いかければ、彼女は何でもないの。と首を振り。
「……こんなに仲良くなれたね」
囁くように、言葉を紡ぐ。
少し目を見張ったグラムは、その表情を笑みに変えて。
無言で、彼女を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
グラムは彼女にだけ聞こえるように、小さな声で。でも沢山の想いを一言に込めて囁く。
その言葉を受け取って、彼女も同じくらい沢山の想いを、一言に込めて返す。
互いの胸に宿る、温かな気持ちを確かめ合って、改めて真っ白な雪と金の砂に視線を移した。
この気持ちを、なんと言おうか。
言葉の不自由さにもどかしさを感じる。
「……幸せ……」
ただ一言、そう言うのが精一杯。表現するには足りなくて、でもこれ以上の言葉もない。
ぽつりと漏らされたヘイゼルの言葉を聞いて、グラムの胸に嬉しさがこみあげて行く。
噛みしめるように彼も頷いて。
静かにこの幸せな時間を、周りの景色と共に、ゆっくりと過ごした。