■クロノス大祭『非情なる現実』
幻想的に装飾のされた街並み。クロノス大祭の時期、街中に家族や恋人たちが溢れ帰り、賑わっていた。
「あーあ、雪と木枯らしが身に染みる。まったく……今日は適当に酒呑んでおとなしく寝るとしますかね」
であれば、一人身で街を歩く者は寂しく感じる。普段は全く気にならないのに、明るい店内や道で行き交う人々が、アクロは妙に羨ましかった。アクロはたまらず、バーの扉を押す。
カランコロン……。
「うわ、ここもかよ……ん?」
店内に逃げても、そこはカップルで埋めつくされていた。アクロは顔をしかめてカウンターに目をやる。マスターと目が合う。するとその正面で、よく知った肩がワイングラスを傾かせていたのだった。
「ラッドシティの男の目は節穴なのっ?」
マスターに向かって、その女性は愚痴を連ねている。
「こんな所で何してんの? どうせなら俺も混ぜてよ」
その横へ、アクロは腰を降ろすのだった。
エレノアは横目でちらりと確認すると、マスターへウイスキーを頼んだ。
「お、気が利くね」
それはアクロが昔から飲んでいる銘柄だった。
「ま、一人よりマシかと思って」
エレノアは残っていたワインを飲み干すと、カクテルを注文する。
「へー。エレノアがカクテルね」
アクロが皮肉交じりに茶化す。
「会うの久しぶりだものね。最近はどうしてるの?」
エクレアはさらっとあしらう。
「最近って、今のこの状況見て聞いてる?」
アクロは自嘲を交えて言葉を返す。
「あら、本当ね」
二人はこんな調子で皮肉と嫌味を応酬しながら、一口飲んではいじりあい、一口飲んではののしりあい、一口飲んでは笑いあった。
良い具合にお酒が回ってくると、アクロが情けない口調で愚痴をこぼし始めた。それに対し、エレノアは、ダン! とグラスをテーブルに叩きつける。
「男がグチグチ言ってんじゃねーよ。バシッと当たって砕けて来やがれ」
アクロはエレノアの気迫に、しゅんと肩をうなだらせる。
「それは分かるけど……そろそろ砕けるのもなあ。エレノア、拾ってくれるか?」
アクロは酔った勢いで、そっとエレノアの手に指を這わせた。
突然のことにボッと顔が赤くなるエレノア。
「なにをっ…………」
そのまま俯いてしまったエレノアに、酔っ払いアクロは調子に乗って両手を添えると、
「な、エレノア……」
少しキザっぽく、熱っぽい声でエレノアの手を握りしめた。
しかしどうだろう。エレノアは触れてきたアクロの手を逆に、むしろ握りつぶすような勢いで握り返すと、
「調子に乗ってんじゃない!」
横一線のビンタをお見舞いした。アクロはそのままもんどり打って、店内のテーブルの上へ吹っ飛ばされていくのだった。
後日、マスターから二人へ多額の請求が送られる。そこには大量の飲食代と、テーブルや椅子の修理代が明記されていた。
しかし、二人は頭を捻って記憶を辿るも、全く覚えていないのでした。