■クロノス大祭『その手を引いて』
雪と、金色の砂が舞う中。「フランツ殿、フランツ殿! からくりが動いてるでござる!」
頬を紅潮させ、白い吐息も気にせずに、ルーベラが無邪気にもこもこのミトンで、少し離れた場所の時計台を示す。
紅玉色の瞳はまっすぐできらきらしていて、フランツは思わず照れてしまってマフラーに顎を埋め、俯き加減。
──ルーベラさん、クロノス大祭、ご一緒してもらえませんか?
──良いでござるよ! めいっぱい楽しむなり!
勇気を出して誘った言葉に、実にあっけなく、あっさりと、でも楽しそうに、彼女は応じた。
いつももっと、考える。
きちんと相手を楽しませられるコースだとか計画だとか。
そもそも相手が自分のことをどう思っているだとか、むしろ自分も相手のことをどう思っているだとか。
でも、今回は関係ない。誘おう。ただそれだけ決めて、実行した。
ルーベラからの答えを聞いたとき、だからフランツは、なんだか判ったような気がしたのだ。
色々考えることもあるかもしれないけれど、まずは楽しむことを1番にする。無邪気に、純粋に。
そんな彼女だから、フランツはルーベラに惹かれたのかもしれない。
そんな彼女に、憧れたのかもしれない。
金色の砂が降り、指先に触れては消える、魔法のような光景。楽しまないと、もったいない。
俯けた顔を前に向けて、フランツは眼鏡を上げる。たくさんのものを見よう。たくさんのものを知ろう。そして楽しんで、それからあとで、考えよう。
そう決めたら、温かい街の灯りすら特別なもののように見えて、気持ちが高揚する。
「フランツ殿、あちらでなにやら愛らしいものが売られているでござる」
きょろりきょろきょろ。
珍しく年相応に色んなものが気になるらしいルーベラの足取りは軽過ぎて、見ていて少し、危なっかしい。
賑わう街ではぐれてしまったら、大変だ。
「……見に、行きましょうか」
だからフランツは、自然と彼女の手を取った。
取ってしまってから、「……あ」と気付いて少し、赤くなって。
でも。
「行くなり!」
元気いっぱい、彼女が楽しそうに、嬉しそうに笑って肯くから。
「──はいっ」
きゅ、と繋いだ手は放さずに、そのままふたり、歩き出す。
どこかで進んだ時計の針が、からんころんと鐘を鳴らした。