ステータス画面

2人でクロノス大祭

ハムスター刑事・シシィ
魔剣・アモン

■クロノス大祭『* 金色の時 流れて ―― *』

 おいでとアモンが招く手に、シシィが応えて側に座る。二人っきりのクロノス大祭の夜、露天風呂のお湯越しに伝わる体温は確かで、アモンと隣り合って肩をくっつけているシシィは、どこかくすぐったくて身をよじってしまった。
「じっとしてないと冷えちゃうよ。肩まで浸からなきゃ、シシィ」
「ならアモン先生があっためてー。ほら、こうやって」
 と、アモンの膝にシシィが遠慮なく座り込んでくる。そんな彼女を湯と自分に押し付けるように、アモンはシシィをそっと抱き締めた。
「あ、ほら、アモン先生! すごいよーっ!」
 シシィが嬉しそうに指差す先には、繊細で美しい輝きに満ちた満天の夜空があった。湯煙を透かした向こうで、きらめく星とたゆたう雪と、今夜だけ特別に降る金の砂とが一緒になって、夢のように踊り続けている。
「わ、キラキラしてすっごく綺麗だよっ!」
「本当だ。やっぱり、すごいね……」
 ため息をついて空を眺めるアモンの腕の中で、シシィは肩から手を伸ばして雪と砂を掴もうとする。そんな彼女の様子はまるで、手の中で甘えて暴れる小動物のようで、アモンはそっと力を緩めてシシィが動ける余裕を広げてあげた。
 瞳を輝かせて空を切るシシィの腕を、雪と砂とがステップを踏むように避けていく。その横からアモンが手を伸ばしシシィの手首を軽く取ると、今度は動きを抑え、待ち構えるように位置を固定させた。
 そして、降りしきる金と白の粒はシシィの指先に触れる。だが、瞳の輝きを更に強くするシシィの心も知らず、雪は温度から、砂はその性質から、はらりと結び目が解けるように消えていった。
「はぅ、すぐ溶けちゃう。ちょっとガッカリなんだよ……」
 そう言って名残惜しそうにこぶしを結んだり開いたりするシシィの頭を撫で、アモンは再び優しく抱き締めた。
「でも、綺麗だったよね、雪も砂も」
「……うん。すっごく綺麗だった。今はまだ降ってるけど、明日になったらやんじゃうし――」
「形としては残らなくても、僕はずっとこの景色を忘れないよ? シシィと一緒の露天風呂で、クロノス大祭の雪と砂を見た、ってさ」
「ボクだって忘れないよ。アモン先生と一緒なんだもん」
 身じろぎを止めこちらに振り向いたシシィに、アモンは言葉を続ける。
「また来年も、ふたりで一緒に素敵なこと探そうか」
「ほんとにっ!?」
 そして告げられたのは、約束だ。感極まったシシィは立ち上がると、アモンの首筋に抱きついた。
「じゃあ来年もまた、こうやって一緒に過ごそう、ね……!」
「ああ。一年後の今日も、こうやって一緒だよ、シシィ」
「うん……!」
 抱き締めた首を手繰り、舌先で頬を辿るようにして、シシィはアモンに口付ける。心臓が強く高鳴る中に唇を離し、その数拍の余韻ごと抱き締め直して、耳元でささやいた。
「……アモン先生、だいすき」
 言葉と態度の答えとして、アモンはさらに力強く、シシィを己の腕の中に抱え込むのであった。
イラストレーター名:七雨詠