■クロノス大祭『―進む時間、縮まる距離―』
雪の白と星のような金とが舞い降る夜の街角。――祭りの喧騒も収まり、静かで優しい雰囲気に包まれた時間。
ゼノンとイヴェールは冬のひんやりした空気の中で、手をつないで互いの温もりを感じながら、他愛の無い話をして帰る途中だった。
ふとゼノンが目を上げるとラッドシティの大時計塔が目に入った。
歩調が弱まったゼノンと共に、イヴェールもまた歩調を緩める。
今でも互いに、鮮明に思い出せる、二ヶ月前の収穫祭。
……あの時計塔が見える風景の中で、二人は恋人同士になったのだ。
二人は足を止め、しばし時計塔に見入り、その時に想いを馳せた。
「あそこから、新しく始まったんだよね……」
イヴェールは静かなゼノンの言葉に頷き、時計塔を眺める。
もう二ヶ月。まだ、二ヶ月。
どちらとも思えた。イヴェールはふと、ゼノンへと視線を戻す。
ほぼ同じタイミングでイヴェールへと向き直ったゼノンと目が合った。
(「恐らく考えていることは互いに同じはずだから」)
ゼノンの青い目がイヴェールの目をとらえるように、言葉のないままじっと見つめる。
目を離せず見つめ合っていると、イヴェールの肩にゼノンの手が乗った。
その手にイヴェールは「あぁ、同じ事を考えてたんだなぁ」という安堵と……これからする事への緊張を抱えて、そっと目を閉じる。
そのまま微かに顔を上げた。
イヴェールを見下ろし、ほっと安堵の吐息をついてゼノンもまた目を閉じる。
この聖なる日に。――夜に。
貴方自身に『これから』を、誓う。
……言葉はなかった。
羽根が触れるような、柔らかな口づけを交わす。
雪の降る中、愛を確かめ深める為に、初めてのキスをした。
先に目を開いたのはゼノンのほうだった。
「……はは。何だか改まると照れくさいような気もする、ね」
そう言って浮かべた微笑は、精一杯の照れ隠しだ。
対するイヴェールは口づけを受けた後、なんだか頭がボゥっとしてしまって……声をかけられても、よくわからなくて。
――わからなくて、でも幸せで。
言葉にできないまま、イヴェールはゼノンにぎゅぅっと抱きついた。
抱きついてきたイヴェールを、ゼノンも腕の中に閉じ込める。
あれから進んだ時間……そして、縮んだ距離。
これからも進んでいく時間。そしてこれからも――共に、隣に。
願い、祈り、誓う。傍らにあるのが自分であることを。