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2人でクロノス大祭

うるわし歌と舞・サキ
糸目の悪魔・ジャフウティ

■クロノス大祭『ダンスの後は…』

 サキとジャフウティは、ひとしきり踊ったあとでベンチに腰を下ろす。冬の冷たい風が、今この時ばかりは火照った体に心地良い。
 まるで雲の上に乗るかのような、ふわふわとした足取り。酔いが回っているのか、ただワルツに調子を良くしてステップを踏んでいるのか。少々判断が難しいが、この場合は前者だろう。いくら酒に強くとも、飲んだ後にあれだけ踊って運動すれば、酒も回ろうというものだ。そんなよく言えば軽やか、悪く言えばおぼつかない足取りのサキをジャフウティはそっと支える。
「そんな調子で大丈夫か?」
 たしなめるような、優しい言葉にサキは悪戯っぽいまなざしを返す。
「あら。ジャフウティーくんはお姉さんにそんな心配ができるの?」
(「やっぱり普段どおりに見えて相当酔いが回っているな」)
 歌と踊り、酒を楽しむのはいつもどおりだが、こういう悪戯めいた言動を取るのはちょっと珍しい。あまり酔いはしないようにしよう、と言ったのにこれである。しかし、それだけ二人で過ごせた時間が素晴らしく感じられたと言うことだろう。
 呆れたような、普段と違った一面が見られて嬉しいような思いが少し、そしてしっかりとした愛情をもってサキを支え、ジャフウティーがきっぱりとした口調で返す。
「今ならできる」
 その言葉を待っていた、とばかりにサキがグラスを掲げる。
「言ったね? それを言った以上、私をきちんと心配して、支えて、守って、愛してくれるってことよね?」
 それは間違いなく、確認したい本当の気持ちなのだろう。面と向かって寂しいと言えないがために、わざと言質を取るような事を言って見せたらしい。最初の言葉のどこまでが演技なのかわからなくなる。大人の女性の演技力は、時として恐ろしいものがある。だが、その本音をわかっているからこそ、やはりジャフウティーもきっぱりと返す。
「もちろんだ。俺はサキを愛しているよ」
「うん、よろしい。素敵な私の恋人に乾杯」
「俺も、俺の恋人に乾杯」
 互いにグラスを飲み干したところで、サキが視線をちらりと街へ戻す。
「やっぱり、まだ体が火照ってるのよね……少し、歩いていかない?」
「いいとも。どこまでもエスコートさせてもらうよ」
 ゆっくりと立ち上がった二人を、再び冬の風が撫でる。その心地よさに少しだけ身を委ねてから、ジャフウティーがサキを抱き寄せて、キスを交わす。
 そのまま絵になりそうな、ほんのわずかな時間の後で、二人はそのまま夜の街へと歩いていった――。
イラストレーター名:N.S.