■クロノス大祭『煌月ノ下、誓ウ永久ノ愛―…』
人気の無い森の奥。凍りついた湖の上。硝子細工のように輝く月を背に、カナメとユリウスはひっそりとワルツを踊る――。
ユリウスの髪とドレスに着けられた花飾りが、藍色の円を描く。
白く染まった世界を優美に舞う二人の姿はあまりにも幻想的で、お伽話の一頁を切り取ったかのようだ。
目に映る全てが動きを止めたような静寂の中、ただカナメとユリウスが湖面を滑る音だけが響いている。
「きゃっ!?」
「おっ、と」
驚き上がる乙女の声と、それを繋ぎ止める力強い腕。
氷の割れ目に足をとられてつまずき倒れかけたユリウスを、カナメがすんでのところで抱きとめる。
「……大丈夫?」
「ぁ、ありがとう……」
微笑を浮かべ覗き込むカナメに、ユリウスは小さな声で感謝を告げる。
カナメを見上げる乙女の頬は赤く染まり、恋人の背に回した腕に力がこもる。
五秒、十秒……。
抱き合う二人は美しい彫像のように動きを止め、互いに見つめ合う。
「「――――、」」
言葉も凍りついたような、白銀の世界の静寂の中。
どちらからともなく、そっと唇を重ねる。
「「……愛してる」」
相手に届くくらいの、小さな囁き。
ゆっくりと体を離した二人の唇からは、同時に同じ言葉が紡がれる。
相手の瞳に映っているのは、愛する者と共に過ごす時間をかけがえの無いものだと感じている自分の姿。
「「…………」」
再度の抱擁はさらに激しく。
再度の口づけは、さらに深く……。
トゲのように突き刺す鋭い寒さも、二人の間に燃える炎を消すことはできない。
そんな二人を祝福するかのように、黄金に輝く小さな欠片がゆっくりと降り注ぐ。
ユリウスの銀色の髪を妖しく彩るのは、ラッドシティ特有の『金色の砂』。
「本当に、キレイだ……」
「も、もぅ……恥ずかしいことを、言うな……」
カナメがユリウスの髪に手櫛を入れると、金の粉が舞い輝きを散らす。
恥ずかしそうに呟き顔を赤くしつつも、ユリウスはカナメに体を預ける。
その柔らかさを、ぬくもりを肌に感じ、カナメは彼女を守り、大事にすると誓うのだった。