■クロノス大祭『この時が、いつまでも残りますように』
革命記念ホール。そこは、ダンスホールとして開放されている。
ユッカはそこで、彼女を……ダリアを呼びとめた。
「ダリアさん!」
「うん? 何だい?」
急き込んだ口調で訊いてしまった。落ち着かなくちゃ。
「……あの、よければ」
落ち着け、落ち着け。クロノス大祭だから、一緒に踊りに誘ったっておかしくない……はず。
「よければ……私と一曲、踊っていってくれませんか!?」
その申し出に……ダリアは微笑む事で承諾した。
「ああ、構わないぞ?」
すっ……と、手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございますっ……!」
またも、落ち着きが失われてしまう。自分から誘っておきながら、なぜか恥ずかしい。とっても。
けれど、それ以上に……嬉しい。
ダンスホールとして開放されているため、音楽が流れている。そして、他にも様々な人々がダンスを楽しんでいた。
自分も、その中に加わるのだ。それも……ダリアさんと二人で。
「あ、あの。あのっ……!」
冷静でいようとするが、冷静でなどいられない。こんなにきれいな人が、素敵な人が、憧れの人が、息づかいがわかるくらいに近くにいる。落ち着けるわけがない。
それでも、ぎこちなく、ぎくしゃくとした足使いで踊る。
ダリアはゆっくりめの足さばきで、かろうじてユッカはその動きにあわせられていた。
「あのっ、足とか踏んだらごめんなさいっ……いえ絶対に踏みませんがっ!」
何を言っているか、わからない。何を言うべきか、わかるわけがない。
けれど……そんなユッカを、ダリアは呆れることなく、優しく見つめてくれていた。
落ち着きを取り戻し、ユッカは感じていた。
至福の時を、幸せと思える時間を。
ずっと、一緒に居たい。彼女のそばに居たい。
このままずっと、二人で踊っていたい。けれど……時計の針は、もう零時過ぎ。
楽しい時間というのは、どうしてこんなに短いのだろう。
「そろそろ……行かなくては……」
名残惜しさを感じつつ、ユッカはダリアの手を離した。
「ん、気を付けて、な」
ホールの端へと向かうユッカとともに、ダリアもまた一緒に歩いてくれる。
嬉しい。途中まで、一緒に歩いてくれている。
……帰りたくない。離れたくなんか、ない。
けれど、帰らないわけにはいかない。
「ふふっ」
そんなユッカの気持ちを察したのか、ダリアは微笑んだ。
「……名残惜しい? なら……」
続けて、静かにつぶやく。
その名残惜しさもきっと、今日の事を、より綺麗に……心に止めてくれるだろうな。
それは、ユッカの胸に強く吸い込まれた。
そうだ、会えないからこそ、離れてしまうからこそ、美しく心に残る事もある。
その言葉に対し、ユッカは何か応えたかった。けれど、出てきたのは一言だけ。
「……お休みなさい」
いつまでも、今日の時が残ってくれますように。
心の中で祈りつつ、ユッカは家路についた。
ダリアの言葉と微笑み、それらを胸に刻んで。