■クロノス大祭『朝焼けのシンデレラ』
いつも夜の酒場は騒がしいが、クロノス大祭の夜だけあって今日は更に盛り上がっていた。大勢で集まって今日という日を騒がしく過ごす者もいれば、カップルで静かに杯を交わす者もいる。
「ん……私もそろそろ、おやすみなさいしようかなー」
エミューとティルコットも二人で騒ぎながら過ごしていたが、徐々に睡魔がやって来たらしい。眠そうな瞳を向けながらエミューはそう呟く。
「では送ろうか、お姫様?」
「えへへ……はい、王子様♪」
差し出された手を取ると、そのまま彼女をお姫様抱っこしてティルコットは酒場を後にした。
そして酒場の喧騒とは一転して静寂が支配する帰り道。
夜から朝に変わる境界であるせいか、そこを歩く者は彼等二人しかいない。
「ん……」
お姫様抱っこの気持ち良さもあって何時の間にか寝ていたようだ。帰路の途中でエミューは目を覚ました。
「お目覚めかい、お姫様?」
朝日が昇る刹那の一時、徐々に朱色で染まりつつある空を堪能していたティルコットだが、目覚めの気配にゆっくり彼女へ顔を向ける。
「あ……お……重いでしょ? 自分で、歩けるよぅ……」
「もうすぐ着くからこのままでね」
キラキラ光る朝焼けの雪と共に向けられた優しき微笑み。気恥ずかしさから降りようとしたエミューだったが、その微笑みに頬が熱くなり、そのまま動けなくなってしまう。
彼女が落ち着いたのを確認すると、ティルコットは再び朱色の空を見上げた。朝を迎える前の刹那の光景が余程好きなのか、空を見上げる彼の表情はとても嬉しそうだ。
(「ティルくんとこうして歩いてるなんて……ふふ、夢みたい」)
できれば何時までもこうしていたいな……そう思ったが、残念ながら永遠という訳にはいかない。
朱色の空に青く澄んだ色が混ざり、二人の目の前にはエミューの家があった。ティルコットはそっと彼女を降ろす。
「……おやすみなさい、ティル王子。願わくは、今宵あなたの夢に」
別れるのは名残惜しいが仕方が無い。エミューは彼の頬にキスをして見送る。
「今、この一時が夢かもしれないよ? ふふ、お休み……いい夢が見られそうさ」
ティルコットも彼女の頬にキスをし、優雅な仕草でその場を去ってゆく。
こうして、クロノス大祭に訪れた夢のような一時は過ぎていった……。