■クロノス大祭『Beside You In Time』
楽しかった。クロノス大祭が終わった。ウォルフとともに帰路につきつつ、チエはある思いにとらわれていた。
様々な催し物や屋台、土産物屋、見世物。それらを二人で……ウォルフとともに歩き、見て回り、楽しんだ。
そのせいか。今夜は少しばかり、二人の距離が縮まった気がする。
何度も祭りを一緒に過ごした仲だが……今夜は、いつも以上にウォルフを意識してしまう。今夜程……彼の事を、お互いの事を意識したのは、初めてかもしれない。
自分のキモチ。彼へのキモチ。
なぜかこればっかりは、はっきりしない。
いや、本当は……わかっている。なのに、「今夜こそ」と思いつつ、それを行動に移したくないだけ。
ウォルフは今、先を歩いていた。いつもの鎧兜姿で、顔も面頬で口元以外は覆われている。
彼の、キモチは? ウォルフのキモチが、わたしのそれと違っていたら?
それを思うと……行動に移すのが、ためらわれてしまう。
「……映える、な」
ふと、ウォルフがちらりとこちらを向き、つぶやくように言った。
「え?」
「赤も……映えるな」
チエが祭りにと着てきた、赤色の服の事か。
おそらくは彼なりの、賛辞のつもりなのだろう。ぶっきらぼうな口調ではあるが……それもまた、彼らしい。そして、賛辞には違いない。
その言葉を聞いたチエは、顔を上げた。俯きがちだった顔をあげ……。
「ウォルフ!」
「?」
その口から出たのは、彼を呼び止める声。
気がついたら、彼との距離を縮め……彼の兜の赤房飾りを引っ張り、こちらへと顔を向かせていた。
「……!? ……おま、何を……ッ!?」
そのまま、彼に何もさせない。チエは正面から、ウォルフの正面から、押し倒さんばかりの勢いで飛びつき……彼の唇を、奪った。
抗いは、無かった。
彼の鎧に覆われた身体、ないしはその首へと腕を回し……チエは、抱きつく。
「……わたし、ね」
長く、短い口づけ。それが終わり、唇を放したチエは……ためらいがちに言葉をつづり始めた。
「わたし、ね。わかったから。自分のキモチ、わかったから」
ウォルフへと、愛しい人へと向けた言葉。そして、言いたかった言葉。
「……あのね。わたし、ずっと居たい。ウォルフの一番隣に、ずっと、ずっと居たい」
自分の口から、そんな言葉が出てくるのをチエは聞いた。そのまま、ウォルフに抱き着き、ぎゅうぎゅうっと抱きしめる。
もう、離れたくない。ずっとそばに居たい。そんな愛しいキモチが、溢れて止まらない。
そして……戸惑い、混乱していたようなウォルフは……呆れたような苦笑をもらしていた。
でも、怒ってはいない、嫌ってはいない。
見えたのだ。兜の隙間から見えた顔が赤らみ、隠しきれない動揺が、鎧からあふれているのが。
二人はしばらくの間、路上で抱き合っていた。
寒風が吹くが、チエの頬は熱く、胸は暖かかった。