■クロノス大祭『 金色の夜』
――クロノス大祭で金色の砂が降ると聞いた。見物に良い場所を探し……見つけた。そこそこ広くて、人もまばらな場所だ。
夜を待って、そこに足を運んだ。
二人でそれを見ようと決めた、ユニと一緒に。
「わぁ……っ」
思わず、といった歓声をあげて、ユニがぱたぱたと駆けて行った。
左右に木が並ぶ街路を抜け、開けた場所までたどり着くと、ふと立ち止まり、夜空に手を伸ばしている。落ちてくる砂と雪を、受け止めようとしているのだろう。
ジンはそんなユニの後を、ゆっくりと追いかけて行った。
彼女の小さな掌に、華奢な体に、金色の砂と純白の雪が触れては溶けて、消えてゆく。暖かな色味を纏ったユニの姿は、輝く金の砂に照らされて、ほのかに光って見えた。
それはまるで、寒い冬の夜に見つけた燈火のような、ほっとする美しさで。
その暖かさを捕まえるように、後ろからそっと抱きしめた。
「は、わ……」
一瞬、ユニは何が起きたのかわからなかったらしく、ジンの腕の中でピクリと跳ねる。そして驚いた顔で振り向いたけれど、見下ろすジンと目が合うと、頬を染めて俯いてしまった。
そんな様子が――素直に、可愛らしいと思う。
胸に湧いた愛おしさに押され、ユニの前に回した腕に少しだけ力を込める。すると、俯いたままのユニが、身じろぎした。ジンの指にある指輪をなでるように、そっと赤い手袋を添えてくる。
ジンも、つと、己の指に光る、星の意匠の指輪を見やった。
これは、ユニから貰った物だ。クロノス大祭、今日この日の記念に。
目線を移して、ユニを見る。彼女が纏った愛らしいドレスも、この日のために新しくあつらえた物だ。ユニの大好きな色。よく、似合っている。
そう、抱きしめながら告げた。
するとユニはとても恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、
「あり、がと……」
途切れ途切れに答えて、手で顔を覆ってしまった。
その体から、ゆるりと力が抜けてゆくのがわかる。
もたれかかるユニを、ジンは優しく受け止めて、支えた。
薄紅色に輝くユニの髪の毛に頬を寄せれば、柔らかな感触と良い香りが伝わった。優に頭一つ分は背が違う少女の体は、とても軽くて、繊細で、守りたくなる。
そして二人は寄り添ったまま、夜空を見上げた。
絶え間なく、星のような煌めきが降ってくる。夜が、金色に輝いている。
腕の中のぬくもりと、幻想的な光景が、時の流れすら忘れさせた頃。
「……大好き」
そんな、小さな呟きが聞こえた気がした。