ステータス画面

2人でクロノス大祭

緋衣草・アレクサンドル
刹月華・クォンタム

■クロノス大祭『金砂の降る夜のこと』

「んーでクォン、改まって相談って結局何なのよ。私でよければいくらでも乗ったげるからさ」
「ん……、その」
 ラッドシティの景色を一望できる高台の喫茶店で、膝の上に手を置いたまま、ケーキスタンドにもカップにも触れず、クォンタムは長い間沈黙を続けていた。同席するアレクサンドルは辛抱強く、いつもとかわらぬ優しい表情で彼女の話を待っている。
「あら、コーヒー冷えちゃったわね。ちょっとボーイさーん、おかわりいいかしらー!」
 椅子から上体を乗り出して、大げさな手振りで店員を呼ぶアレクサンドルに、クォンタムが視線を上げる。
「あ、私は別に……」
「いいのよ。暖かいもの飲んで、ちょっと楽になりなさい」
 程なくしてテーブルに淹れたてのコーヒーが並べられた。クォンタムは両手でカップを支え持ち、端からゆっくりと口をつける。
「お前に相談するのも、どうかと思ったんだが」
「……うん、ちょっと引っかかるけど、続けて」
「アレク、その……、好きな人が、居るんだ」
 液面に映る己を見つめながら呟いたクォンタムの言葉に、アレクサンドルの目が光る。
「あら素敵、恋愛相談ね! お相手はどんな人なのかしら。やっぱりエルフ? ねねね、詳しく話してみなさいなクォン」
 途端にわざとらしく身を乗り出してくるアレクサンドルに、クォンタムは目を丸くした。アレクサンドルの好奇心で塗りつぶされた瞳に負け、クォンタムはぽつぽつと語りだす。
「……そいつはさ、お節介焼きで、調子よくて、頑固で」
 うんうん、とアレクサンドルは腕を組み想像の世界に入る。
「フェミニストで、優しいんだけど、……鈍感なんだ。すごく」
「いるわよねえそういう奴」
「それでさ、そいつ、人間なんだ。私はエルフだからさ、いつか――」
 その先を言いよどむクォンタムに、アレクサンドルは片目を開けて言う。
「寿命差が怖いのね。ありがちな話だけど、いざ自分らで対面すると面倒よね」
 言葉にできなかった恐れを言い当てられ、クォンタムはこくりと頷いた。
「じゃあ、アレクはどう思う? 好きな人と寿命がまるで違っているとしたら」
「寂しいのは嫌よ。好きな子置いて先に逝くのは特に。まあ、私だったら多分途中で人間止めてエルフになるかもね」
 あくまで私の判断ではだけどね、とアレクサンドルは苦笑した。
「ね、貴女の恋なら応援するわよ私。怖いことは私にどーんと任せてみなさい、頑張っちゃうわ。貴女みたいな可愛い子に好かれてるのに人間止めるの躊躇するってんなら、私が相手を」
「相手……お前だ、ばかもの」
「ぼこぼこに……って、え?」
 長い耳の先まで真っ赤にしたクォンタムが睨んでくるのを、アレクサンドルは呆然と見返した。
「……何、クォン、私の事好きだったの?」
「あそこまで白状させておいて今更何を言うか」
「あらやだ……、その、ごめん、前言撤回。応援はナシにするわ……、だって」
 だって私も貴女の事、好きみたいだもの。
イラストレーター名:ワジマ ユウスケ