■クロノス大祭『2人のひみつ』
外では金の砂と白い雪が降る特別な日。ナユタは胸が高鳴っていた。
普段、シラベが旅団の団長という立場であることから、なかなか二人きりで過ごすことが難しい。
そこで、一年に一度の特別な日をせっかくなら一緒に過ごしたいと、ナユタはシラベにお願いしたのだった。
(「今度はお願いしなくても、恋人らしく過ごせたらいいな」)
そう思いながらシラベの隣に腰を下ろした。
テーブルには湯気の立つ紅茶が二つ並んでいる。
(「二人きりだ」)
隣に座っているのは、大切な人。
こんな風に過ごせることを嬉しく思いながら、ナユタは紅茶を一口飲んだ。
ほどよい香りが口の中に広がる。
(「幸せだな」)
幸せを味わっていると、隣からシラベが袖を引いた。
「ねえねえ」
ナユタはシラベの方を向いて軽く首を傾げる。
「どうしたの?」
そう聞くと、シラベは何か言葉を探す様子でナユタを見上げた。
ナユタが、手にしていた紅茶をテーブルへ置いてシラベを見つめると、シラベは頬を赤くして視線をそらした。
ナユタの袖を握りしめたまま、シラベは紅茶の湯気を眺めて心の中で気持ちを落ち着けようとしていた。
(「折角のクロノス大祭だし、たまには、ちょっと位恋人らしくしてみようと思ったのだけど」)
いざ伝えようとすると、なんて言えばいいのか分からなくなる。
(「好きとか言えばいいのかな。でも面と向かって言うのは無理だと思うなっ! 恥ずかしいと思うな!」)
それでも、ちゃんと言おうと考えていたシラベは、恥ずかしかったが頑張って顔を上げた。
握りしめていた袖を引き寄せ、二人の間の隙間がなくなるくらいナユタの傍に近づく。
「あのね」
一拍置いてから、耳打ちする。
「なゆたん、すきだよ」
大きな声ではなかったが、頑張って想いを言葉にしたシラベは、恥ずかしくて目を閉じた。
ナユタは、貰った言葉が嬉しくて、恥ずかしくて真っ赤になった。
そして照れつつも、お返しにとシラベの耳元でささやく。
「僕も好きだよ」