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2人でクロノス大祭

踊る光影・ロゼリア
蒼撃の星霊術士・エルシェ

■クロノス大祭『逆さの鐘。地上の詩〜始まりの祝福と――』

 年に一度、12月24日にだけラッドシティに訪れる不思議な日――クロノス大祭。
 その日、ロゼリアはエルシェに誘われて、ラッドシティにある時計塔の一つに足を運んでいた。
 頭上に浮かんでいるのは、大小さまざまな鐘の数々。時計の針が頂点を指した時だけ、白い雪と、黄金の砂と共に乱舞して音色を奏でるというそれを、2人は見上げていた。
「ここは天地が逆さになる場所なのね」
「そうだね」
 逆さまになっているのは鐘なのか、それとも自分たちなのか。思わず錯覚してしまいそうなほど、不思議な光景がここには広がっている。
 目を細めるロゼリアの傍らで、頷くエルシェは上機嫌だ。赤らんだ頬は、既に杯の中を何度か空にした証だろう。彼が飲むこと自体、珍しい。それもまた、こんな風に逆さまに、ひっくり返ってしまった場所だからこそだろうか。
 今だけは、普段なら出てこないものが、見えないものが。簡単に見えてしまうのかもしれない。
 だって、ここは逆さまの鐘の下。いつもなら見えるはずの鐘の内側が見えない代わりに、何かがきっと、ここにある。

 グラスの中にガラス玉を落とせば、鐘とはまた異なる音色が鳴る。
 くるりと軽くそれを揺らせば、ゆるりと踊るガラス玉が器に触れて、独特の音を二人の耳へ届けた。
「お祝いしよう、始まりに」
 誘いかけるロゼリアの言葉に頷き返したエルシェは、手に持ったグラスを近づけた。「乾杯」と返された声と共に2人のグラスが重なり合って、鳴り響く振動にまた、ガラス玉が揺れる。
 くるくる、くるくると。
 回る様子は、太陽と月が天地を巡る様にすら思えて。それがゆっくりと入れ替わるように舞う姿は、まるで、今この空を表しているかのよう。

 グラスの中では泡が溶けて、まるで天に焦がれるかのように昇っていく。その向こうに広がるのは、逆さまの鐘と天井と、移り変わりゆく空の色。
 鐘の音は何度か繰り返し鳴っているが、針が再びそこへ至るまでの間、塔はまた静けさを取り戻す。静寂に支配されたその場所で、2人は静かに見上げていた。この時計塔の上を。
 やがて、茜色に染まり、ゆっくりと暮れなずむ冬の空。少しずつ訪れ、深まっていく夜の帳を、2人はグラスを傾けながら見上げる。
 鼻をくすぐる淡い香りの、こうやって過ごす時間の心地よさ。
 忍び寄ってくるはずの寒さを感じないほど心が温かいのは、彼が隣にいるからこそだろうか。
「沈むわね」
 地平線の彼方へ消え去る最後の瞬間。すっと伸びた光に照らされ、白い雪と黄金の砂が混ざり合いながら輝くのを、二人はじっと、見つめていた。
イラストレーター名:シロタマゴ