ステータス画面

2人でクロノス大祭

月白のステラ・ルカ
愛想義心の朱蓮・ナリュキ

■クロノス大祭『すべってはまって常温で。』

「……っうーい」
 時は夜更け。大きな酒樽がいくつも積まれた部屋で、彼、ルカは……ふんぷんたる酒臭さを室内に放っていた。
 その理由は簡単。二抱えはある大きさの酒樽、ないしはその一つを開け、中身を升にて己に流し込んでいたからだ。タンクトップ姿のルカの傍らには、同じような姿の女性……ナリュキ。彼女も同じく、酒のにおいをまき散らしている。
「……ぷはっ。今宵は、酒が切れる心配がないにゃー。にゃははは♪」
 ナリュキも手元の升にて、酒樽からかき出すように口に運び、喉を鳴らして飲み干していた。
「おう、今年は外に出ずとも大丈夫、呑む事に専念できるねー♪」
 なんでまたこんなに酒樽大集合かというと、先のリヴァイアサン大祭が原因。
 酒を切らし、寒空の中をさまよった……という、実に寒々しく惨めかつ酒が飲めなかったという苦ーい体験を繰り返さぬよう、今回のクロノス大祭では最初から酒を大量に用意。かくして本日、集めた酒を飲み始めた次第。
 酒樽の一つ。それをどかっと蓋を割り、升ごとざんぶと沈め、なみなみと酒をすくい出し、がぶりとそれを胃の腑へと流し込む。くうーっ、たまらん。五臓六腑に染み渡る〜……と、二人は堪能していた。

 そんなこんなで、酒をかっくらい数刻。しかしルカは、少しばかり違和感……というか、気が付いてしまった。
 性に合わん。升で呑むのも風流かと思ったが、なんだかイマイチ。早い話が、升じゃあ一気に呑めないから物足りねーってなワケだ。
 つーか、クロノス大祭なんだから、もっとこー……ガバーッと、ドバーッと、ぐいぐいっと呑めないもんか。酔っ払いつつある彼の思考は、もはや常識もともに消えつつあった。
 そして、それはナリュキも同様の様子。が、彼女はふと、にたーっと笑った。何かを思いついたようだ。にたーっと笑いを浮かべるだけの何かを。それを実際の行動に表すことで、ルカに示す。
「もう樽直接で行くべきじゃろ?」
「おー、さすがナリュキ! いい事思いつくねえ!」
 平たく言えば、樽に直接口をつけて……より正確に言えば、樽に直接顔を突っ込んで、酒を胃の腑に流し込むという行動に出たわけだ。
 やがて……樽一つが完全に空に。
「よーし、この調子でどんどんいこー♪……あ゛っ!」
「この調子で次もどんどこ平らげ、ひにゃあっ」
 二人が発した最後の奇妙な声は、同じタイミングで樽に落ちたためにあげた声。でもって樽は、かなり大きい。ちょうど、二人の人間がすっぽりとはまるほど。
 で、ルカとナリュキが、はまってしまった。
「抜けにゃい〜、困った〜」
 もぞもぞ動くナリュキだが、抜けそうにない。
「仕方ないよね〜、ここでお休みだね〜」
 むぎゅむぎゅと、わけのわからない事を口走りつつ、ルカは眠気を覚え……そのままいつしか、ナリュキとともに眠りに。
 
 次の日の朝、二日酔いと樽からの脱出で散々な目に合う二人であったが、それはまた別の話である。
イラストレーター名:乙部はるきち