■クロノス大祭『Segreto della foresta di bianco*』
「うわっ!」静かな森に声が響く。
ダンデとドゥドゥがよく二人で遊びに行く森。その森を散歩中、ダンデは雪に足を取られて転んでしまったのだ。
(「どうしていつも、こうなんだろ……」)
ドゥドゥに気付かれないように溜息を吐く。ドゥドゥもまた、座り込んだままのダンデを見つめながら彼に気付かれないように溜息を吐いていた。
(「どうしてわたし、いつも素直になれないのかしら……」)
ダンデが怪我をしていないか心配だった。でも素直に言えない。
雪を払う振りをして、春の日差しのような金髪に触れる。ふわふわの髪は優しくドゥドゥの指先をくすぐった。
二人は想い合っているにも関わらず、互いに片思いだと思っている。この状況を打破する為、ダンデは心を決めていた。
「あ、あのね? ドドちゃんに言いたいことが、あるんだ」
突然、雪の上にも関わらず背筋を伸ばして正座したダンデに、ドゥドゥはどうしたの?と不思議そうに首を傾げてダンデを見つめた。
真っ直ぐに、視線を逸らさずにドゥドゥを見つめる。心を落ち着けるように大きく深呼吸し、早鐘を打つ鼓動を宥める。
「オレ、ドゥドゥが、好きです」
真っ直ぐに向けられた視線と、彼の口から出た言葉にドゥドゥは文字通り、目を丸くした。
まるで満月のように丸くなった金色の瞳から目を離さず、ダンデは一言一言ゆっくりと確かめるように言葉を紡ぐ。
こんな自分が彼女に釣り合うなんて少しも思っていない。けれど好きという気持ちは本物だ。誰にも否定する事はできない、本当の気持ち。
「あの、その……もし良ければ、オ、オレのお嫁さんに、なってください!」
深々と頭を下げ、右手をドゥドゥに差し出す。その姿は一見すると土下座のように見えた。
ドゥドゥはしばらくその手を見つめていたが、やがて表情を和らげると、差し出された右手をそっと手に取った。少し力を込め、きゅっと握り返す。
「ばかね」
ダンデの耳にドゥドゥの声と共に衣擦れの音が響いた。その場にしゃがんだドゥドゥの髪が、彼女の動きに合わせてふわりと揺れる。
「あなた以外、誰がいるの?」
尚も頭を下げたままでいるダンデの頬に、雪色の髪がさらりと触れた。
「好きよ、ダンデ」
ドゥドゥの言葉に顔を上げたダンデの瞳を覗き込む。綺麗なオレンジの瞳がドゥドゥの姿を映している――その事がどこかくすぐったくて、でも嬉しくて。
好きだという想いを込めて、ドゥドゥはダンデの鼻先にそっと口付けた。
「……う、うえ?」
少しの間の後、ダンデは間の抜けた声を上げた。キスされた鼻を押さえ、赤くなった顔でしきりに瞬きを繰り返している。
「オレで良いの? 本当に?」
「……何度も言わせないで」
そっけない言葉をかけられても、ダンデは嬉しそうに微笑んだ。見上げてくるドゥドゥの表情が、まるで春の日差しに照らされて溶けた雪のように、柔らかい笑顔だったから。