■クロノス大祭『時間の砂と、きみの笑顔と』
おしとやかに降っていた純白の雪と金色の砂が、突然きらきらと輝きだした。上空で風が吹いたのだろう。
空で踊り跳ね回るように雪と砂が舞うと、それを見計らったかのように人形楽団が現れた。
一時間前に演奏された、追憶を誘うような静かな旋律が嘘のように、誰もが動き出さずにはいられない華やかなワルツが奏で始められる。
ゼロはその光景を前に、静かな旋律を思い出しながら、その新しい旋律に耳を傾けた。心に響いた旋律を一つでも取りこぼさないように、真剣かつ楽しそうな表情になっている。
ニーナは、そのゼロの横顔見て幸せな気持ちになっていた。こうしていられる今が、どれだけ尊いものかと噛み締める。
「お師匠様。こんな素敵な音楽を、私たちもいっぱい届けていきましょうね」
ニーナが得意満面な表情でゼロに笑いかけた。
ゼロはニーナの顔を見る。すると、その口元にはクッキーのかすがついていた。ゼロは笑って良いやら感動して良いやら苦笑い。そんなニーナが心強くも、可愛くも感じられた。
「そうだな。よし、行くか」
ゼロはニーナの口元を拭ってやると、力強くニーナの手を取った。そして、白亜の時計等を背にするのであった。
ニーナ腕の中には、まだほのかに温かいクッキーと焼き菓子、そして少し冷めたココアが残っていた。ごみごみとした人混みの中を、ゼロの奏でる鼻歌のリズムで歩んでいく。
ゼロの手に引かれていると、不思議と人にぶつからず、どっちに行こうかと悩んだりせずに済んだ。ニーナは安心感に包まれた。
すると、遠ざかった白亜の時計塔から、カラン、コロン、――と透き通った鐘の音が聞こえてくる。
ニーナは足を止め、ゼロに呼びかけた。
「お師匠様」
ゼロは鐘の音に気を取られながら、ニーナの顔を見る。
「この時計塔、鐘が鳴っている時に願い事をすると、叶うんですよ」
ニーナはゼロの瞳を真っ直ぐ見つめて、そう言った。
カラン、コロン、――と、二人の周りでは通り過ぎる人達が喜びの歓声をあげる。それは笑顔だったり、笑い声だったり、時計塔に向けてのラブコールだったりする。
「ほら、お師匠様」
ニーナがゼロの手を引き、白亜の時計塔に向かって満面の笑みを向けた。その脇にゼロも並ぶと、そのニーナの横顔を見て、満足気に白亜の時計塔を見上げたのだった。