■クロノス大祭『a wish and a promise』
空より舞い降りてくる金色の砂……幻想的なその光景に目を奪われる人々。そんな喧騒に背を向けて、ギヴンとシャルシィリオは連れだって歩いていた。
(「まさか、照れ屋さんのリオからダンスに誘ってくれるやなんてなぁ」)
ギヴンは緊張している様子のシャルシィリオを横目に見る。
普段スカートすら嫌がる彼女だが、今日はドレスに身を包んでいる。
見慣れた彼女の初めて見る姿に、ギヴンの顔には自然とやさしい笑みが浮かんだ。
一方、シャルシィリオの方はというと、相手に目をやるどころでは無い。
(「……落ち着かないと」)
隣に気付かれ無いよう深呼吸を繰り返し、冷たい空気を吸い込んで、火照った身体と心を冷やしていく。
「……あの、な。革命記念ホール、ダンスできるみたいなんだ」
そう言って彼を誘ったのはつい先程。
それだけでも結構な思いきりが必要で、未だに高鳴る鼓動は着なれないドレスと同じくらいに心をかき回す。
(「それでも……」)
これは必要な事だ、と思いを新たにする。 そう、ギブンにこれからする『お願い』の為には……。
「リオ」
目的の場所に着き、早速シャルシィリオに慣れ親しんだ愛称で呼びかけその手を取るギヴン。
ぎこちなく応じるシャルシィリオはやはり慣れないためか緊張している様子。
そんなシャルシィリオをゆっくりとリードしつつも慣れない彼女のペースで踊る、包む様な労る様な優しいステップ。
優しい気持ちが伝わってくる様な導きに何時しかシャルシィリオから固さが消える。
たどたどしくも優雅に、委ねる様にステップを踏む内に、躇いも消えていく。
シャルシィリオは不意に足を止め、彼の手を握り……胸の奥から言葉を紡いだ。
「あのな……聞いてほしい事があるんだ……」
さあ、言おう。一世一代の『お願い』を。断られるんじゃないか、その心配はあるけれど……たとえそうでもこれから言う言葉に後悔は無い。
だって……。
「次に、他の都市国家に行ったら……俺に……ドレス、着せてくれないか? ……白い、ドレスを……」
私はギヴンがこんなにも、『大好き』なのだから。
――時間が止まった様に感じた――。
きょとんと、思わず頬を染め俯く彼女を見つめてしまうギヴン。
「……嫌だったら、別に、」
「嫌なわけ、あらへんよ」
『断ってくれてもいいんだぞ』。
そう続いただろう台詞、そんなあり得ない可能性を皆まで言わせはしなかった。
「……え?」
俯いた顔を上げ、驚いた様にギヴンを見つめるシャルシィリオ。
ギヴンはそんな彼女に微笑みかけ、安心させる様に強く抱きしめる。
「!」
その行為の意味に、応えて抱きかえすシャルシィリオ。
うっすらと涙と笑みを、同時に浮かべる彼女に喜びや幸せ、いとおしさが入り交じった気持ちを抱き、ギヴンは万感の想いを込め抱きしめる。
そして、彼女にそっと呟く言葉はたった一言。
「……愛しとるよ、リオ」