■クロノス大祭『二人の楽しい時間 〜紅蝶〜』
「折角だし、今日の記念になりそうな物を探しましょう」シャホンが楽しげに明るく提案した。
今日は1年に1度だけのクロノス大祭。
ラッドシティではお祭り騒ぎの賑やかな光景が広がっている。
「そうね……」
静かに微笑みながら同意するフィオーレ。
「じゃあ、二人でそれぞれプレゼントを贈りあうってどうかしら?」
「……いいわね」
華やかな街を色々見て回りつつ、シャホンが更に提案し、フィオーレが頷いた。
(「どんなのがいいかしら……フィオと言えばやっぱり髪飾りかしらね……」)
緑の綺麗な長い髪に、いつも可愛い桜の小さな髪飾りをつけている姿を浮かべる。
アレも似合いそう、コレも似合いそう、でも、こっちのはフィオには派手すぎるかな……等、目に付いた髪飾りをフィオーレが付けた姿を想像しながら見て回っていた。
(「あ、この髪飾り凄く似合いそうだわ」)
(「……こういうことは苦手だけど、せっかくの機会だし、ちゃんとしたのを選びたい、な……」)
フィオーレは『誰かへのプレゼントを選ぶ』という事が苦手であった。しかし、シャホンと一緒の時間を大切にしたい、だから、ちゃんとした物を選びたい。と、真剣な眼差しで見て回った。今日の記念になる物を。
2人とも会計を済ませ、それぞれ可愛らしくプレゼント用にラッピングされた小さな箱をお互いに渡しあう。
ウキウキと瞳を輝かせるシャホンと静かに微笑んで幸せそうなオーラを纏わせるフィオーレ。
「一斉に開けましょう」
シャホンの声に、フィオーレがこくん、と頷いた。
――シュル。
可愛らしいリボンを解き、包装紙を丁寧に開ける2人。
「!」
「……!」
箱を開けて2人の目が驚きに見開かれた。
シャホンの手には大きな紅い蝶の髪飾り。フィオーレの手には桜の花で紅い蝶が羽休めしている髪飾り。
「2人とも似たような事考えてたのね」
「そう、だね……」
その偶然に、お互いに自然と笑顔が広がった。
「シャノ……つけてあげる……」
フィオーレが申し出、シャホンは髪飾りをフィオーレに手渡す。
慣れた手つきでシャホンの髪に紅い蝶をとまらせるフィオーレ。
「髪……シャノは綺麗な黒髪だから……紅がよく似合う……」
シャホンが偶に紅い蝶の髪飾りをしているのを見た事があった。だから、これも絶対似合うと思っていた。
「じゃあ、今度は私がフィオに……」
シャホンがフィオーレから髪飾りを受け取ると、フィオーレがいつも髪飾りをしているのと反対側に髪飾りを留める。
「うん、可愛いわ。フィオに凄く似合ってる」
2人は鏡に向かって、お互いに贈りあった髪飾りをつけた姿を確認した。
シャホンは、その自分の姿を見て嬉しそうに満面の笑みを広げ、フィオーレは控えめに少し照れた笑みを浮かべた。
二羽の紅い蝶は黄金の空と純白の雪の中に舞い踊りだした。