■クロノス大祭『秘蹟工房の封印 しんきんぐ なう』
「う〜ん……?」「これを、こうして……いえ、違いますね」
ふたりの前には、大きさの違う、3つの壷。
クロノス・メイズの中──『秘蹟工房』。
なにが正解なのか。
考えても、考えても、もっと他の正解があるように思えてならない。
ふたりの周りでは星霊やスピリットが思い思いに過ごしながら、ふたりが正解を選び出すのを待っている。
「あー……! 混乱してきますね」
ルーンが言って、くしゃりと髪を掻き上げる。
ちらり見た隣の彼女──プレノアは、真剣な表情で壷を見比べ、傾けたり、移したり。
小さな声で「コレは確か遺跡の何処かでヒントを見たことあるような……」と呟き、瞼を閉じて思い起こそうとしたり。
彼のことを忘れてしまったように見えるほど、夢中だ。
せっかくのクロノス大祭のその日。
街では、恋人達が幸せでロマンチックな時間を過ごしているであろうときに、こんな危険と隣り合わせの罠と謎に囲まれて。
そう思えば少し切ないような気もするが。
──でも。
いつも一緒にいるはずの彼女の、また新しい表情を見られたことに、気付けば口許も和らいで。
けれど、当の彼女は彼のことを忘れるどころか、彼にカッコイイところを見せたいと、懸命に頭を捻ってみるけれど、考えれば考えるほど、判らなくなる。
盗み見るように見上げたルーンと、はたりと視線がかち合って、不意に肩の力が抜けた。
──ルーンさんと一緒なら、きっとなんとかなる、かな。
どちらからともなく目許緩ませれば、強張った指先に温かさが戻るような気がして。
「……プレノア。来年も再来年も、いつまでも一緒に居ましょうね」
こうしてふたりで過ごせることが、既に幸せなのだから。
──私達は、私達なりに。
軽くそっと手を重ねて励ませば、プレノアもふわりと微笑んだ。
「はい……!」
だから進もう、迷路の先へ。
くるりと視線を壷に移したとき、突然それは、閃いた。
「わかった──……!!」
「本当ですか……?!」
驚き目を丸くするルーンと視線を合わせ、プレノアは力強く肯いた。
『アルカナ魔法教会』の仲間達に知らせる前に、答え合わせをする前に、彼に見て欲しい。だってやっぱり、カッコイイところを、見せたいから。
だから彼女はまず、『影黒』の壷を手にして──……。