■クロノス大祭『どこであっても、二人で一緒に』
きれいだな、とライは思う。きれいだね、とリィナは言う。
クロノス大祭名物の、白い雪と金の砂は、町の灯を照り返してきらきらと、水中に降る宝石のように、輝き、にじんで、二人を包む。
見上げた空は静かで、喧騒はその中に吸い込まれてどこかに行ってしまう。足音の一つ、吐息の一つも、この世界の全てを飛び越えて、はっきりと聞こえている。
つないだ手の暖かさはいつまでも確かだ。
指先は絡み繋がりつつも、手のひらの熱を冬風にさらわれないように、心臓は一段と高く、心地よく今を刻み続ける。
それは、ありふれた光景だ。すれ違う人影の中には、数多の恋人たちがそれぞれの歩調で大祭を歩いていた。
だけども、とライは言う。
そうだね、とリィナは答える。
私達が一番、誰よりも、このお祭りを楽しんでいる、と。
「ね、リィナ、何か見たいものとかはあるかな?」
「見たいもの?」
ライの問いかけに、リィナは視線を街中へと外し、景色を見回した。辿るのは雪と砂、時々ライの横顔を見つめながらも、一つの答えを出す。
「うーん……、せっかくラッドシティに来てるんだし、時計とかかなー?」
「うん、僕も同じ事考えてた」
そう言ってライが頭を撫でてやれば、えへへ、と胸元に顔を隠してくるリィナ。その肩に、ふわりと、赤いマフラーが掛けられた。
「あ、これ……」
「そろそろ風が出てきたかな、と思って。寒くない?」
リィナの襟元を直しつつ、ライは問う。
「ううん。……あったかい、よ」
すこしだけ短く巻かれたマフラーは、二人の距離を更に近くした。歩きづらさも構うことなく、恋文を書くようにゆっくりと歩く。
名も知らぬ詩人の言葉にいわく、全ての恋人たちは、望むなら望むだけ、永遠を手に入れられるという。想いの前には時間も空間も運命すらも、大きさを変え従うほかはない、と。
大事なのは、隣にいる、と知ること。
必要なのは、隣にいるよ、と伝えること。
その他にも、ちょっとした日々の工夫があれば、なお。
「ね、時間はまだ、充分ありそうだね」
「うん、お祭りは始まったばかり、ですよ」
「それにこうやって、二人で歩く機会もそうそうないから、だから」
「だから?」
抱きついてくるリィナの腕に、ライもまた身を預ける。驚かせないように手を回して彼女を引き寄せれば、二人が密度濃く触れる面で、鼓動と温もりと喜びと愛しさとが、終わらない交感を始めていた。
「少しだけ、遠回りしていこうか?」
「うん、賛成ー」
そう言って、微笑をお互いに見せ合って、二人は、今を長く過ごすことを決めた。