■クロノス大祭『さよならの、その後に』
さざめく祭りの喧騒を後にして、浮かれた気持ちも未だ消えぬまま。帰り着いて投函されていたカードを見たときの、この全身の血が冷え切るような。
絶望とも激情とも知れない、言いようのない感情を。
──お前、想像できたかよ?
逃げるみたいに、隠れるみたいに、薄暗い路地を進む、後姿。
見慣れた格好に、いくばくかの荷物。
踏み込み、速度を上げて、そのまま握り締めた拳に勢いを乗せて。
「チャッピー!!」
「っ」
振り向きかけた相手の肩を掴んで、衝動のままに、殴りつける。
年上だというのに小さな身体は簡単に反転して、手を離れた荷物は吹き飛んだ。
だけど、許さない。ふらつく彼の胸倉を掴んで壁に押し付けて、トールは彼を睨み下ろした。
彼──チャーリーも赤い瞳に強い意思を宿して、トールを睨め上げる。
「いったいな……いきなり、なにするのさ」
「なに勝手に居なくなろうとしてんだよ!」
口の中切れたじゃないと、告げようとした言葉は噛み付くような怒号に消される。
「急に、こんな何の話も無くどっか行かれたら、皆悲しむって分かるだろ……!」
今までありがとう。じゃあね。
探されないようにしたはずなのに、どうして彼はここにいるんだろう。複雑な気持ちを飲み込んで、チャーリーは視線を落とす。
「良いじゃないか。僕はもう1人でも平気だから」
邪魔しないでよ。溜息と共に吐き捨てた台詞に、「お前っ……!」とトールは首の締め付けをきつくする。
そんなことはどうでもいいのだ。皆がどう思うか、さっき言ったというのに、伝わらない。
「大事に思われてるって事、もっと自覚したらどうなんだ!」
真っ直ぐに叩き付けられた言葉に、チャーリーは目を見開き、少し躊躇い、言葉が、消える。
沈黙が落ちて、そしてもう一度、軽い溜息。
「分かったよ。……アクエリオで会いたい人が居るから行くのは、いいでしょ?」
彼のその言葉に、トールも手を離す。そして、憮然と襟元を正す彼に、ぽつり、確認。
「用事終わったら戻って来いよ?」
「……」
「……おい、返事」
さっ、と視線を逸らしたチャーリーに、低い声が確認を重ねる。
ああ、もう、お節介。
でもね。でもさ。
「……はぁい」
渋々の返事に、満足げに肯く友人。
彼に見えないように背を向けて、荷物を拾って、歩き出す。
「……またね」
探してくれて、ありがとね。