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2人でクロノス大祭

幻影に揺らぐ桜狐・フィルディア
桜傍在闇・エリオン

■クロノス大祭『甘いケーキと甘い時間の作り方』

「こういうのも良いって、思わないか?」
「別に……まあ、悪くないけどな」
 賑やかなお祭りも楽しいけれど、とフィルディアに誘われ、今に至る。エプロンを身に着けながら、エリオンはほのかに顔を赤らめた。
 2人の目の前には、ケーキの材料――元々、フィルディアもエリオンも不器用ではない。美味しそうな狐色のスポンジが出来上がるまでには、そう時間はかからなかった。
「どう?」
「へえ、器用だな……」
 エリオンが真っ白なクリームをスポンジに塗り、フィルディアはそれをまじまじと見て、笑った。スポンジの間から覗くクリームと苺が、無性に可愛らしく見える。

「はい、後は上に苺を並べて……」
「…………」
「フィル……?」
 苺を持ったまま、ぴたりとフィルの手が止まる。無言のまま、彼は苺を持っていた器に戻した。彼の視線は、ケーキの上に乗せられた砂糖菓子にその視線は向けられている。
「ああ、狐と猫? どうしたんだ?」
「いや……これ、もうちょっと……」
 砂糖菓子は、白い猫型の物と桜色の狐型の2つを用意していた。何となく、エリオンとフィルディアを思わせるそれらは、少しだけ離れた位置に配置されている。どうやら、それが気に入らないようだった。
「あ、こうすれば良いのか」
 フィルディアは桜色の狐型砂糖菓子をケーキから一度外し、白い猫型砂糖菓子にピッタリとくっつくように、配置をしなおした。狐と猫は仲良さげに、寄り添っているように見える――エリオンは、思わず顔を赤らめた。
「な……何、して……」
「どうしたんだい? こっちの方が、良いだろ?」
「んなわけ……っ」
 エリオンの気持ちを分かっているのか分かっていないのか。砂糖菓子を見つめるフィルディアの表情は、とても満足そうだった。コホン、とエリオンは咳払いをする。
「その……自分達みたいだな、この砂糖菓子……」
「ん? 何? 聞こえないな?」
「も、もう良いっ!!」
 さらに顔を赤くし、プイッと変な方向を向いてしまったエリオン。そんな様子を、フィルディアは穏やかな瞳で見つめていた。

「エリオン、クリーム。顔付いてるぞ」
「え?」
 その時、フィルディアはとエリオンの唇に優しく、口付けを落とした。
「なっ、何だよ! こんな、お約束……っ」
 当然ながら、一気にエリオンは顔を真っ赤にする。くすり、とフィルディアは笑った。
「お約束じゃないぞ。クリームなんて、付いてなかった」
「もっと状況が悪いじゃないか!!」
「キスしたかっただけだが、悪かったか……?」
 目線を合わせるように、フィルディアはエリオンの顔を覗き込んだ。彼はちらり、と自分を見つめてくる。やがて、諦めたように、エリオンは小さな声で呟いた。
「好きに、しろよ……」
「じゃ、遠慮なく」
 周りの事なんて、知らない。祭りの日に2人で静かな時間を過ごすのも、悪くない時間の使い方であろう。

 ――――さあ、甘いケーキが完成したら、今度は甘い時間を、作ろうか。
イラストレーター名:高澤