■クロノス大祭『勿忘草に想いを込めて』
年に一度のクロノス大祭も、もうすぐ終わりを告げる頃合。これまでの一年を振り返って、これからの一年への思いを新たにして、今日の祭りを目いっぱい楽しんで。
そんな活気に満ちた町の景色を、スクィはチカと2人で丘の上から眺めていた。
柵に手をかけて町を見下ろせば、そこに広がるのはお祭りの光に満ちた、いつもとは少し違った町の姿。
「ラッドシティのクロノス大祭はとっても綺麗なのー」
遠くからでも伝わってくる祭りの活気と、空から舞い降りる白い雪と金の砂に彩られた町の姿は、まるできらきらと輝く宝石箱。
見ているだけでも楽しくなってくるような光景だけど……。
「……そうだな」
隣に立ったチカからは、素っ気ない返事が返ってくるのみ。
(「まぁ、それが君なので良いのです」)
そんなチカに視線を向けて、スクィは少しだけ悲しそうに息をつく。
元々お祭りで騒ぐタイプじゃないけれど……。
でも、今日はその横顔がどこか悲しそうに見えてしまう。
何かがあったのは分かっているし、何があったのかと聞くつもりもない。
ただ……
「お祭り、賑やかだったのー」
「……そうだったな」
こうして、いつも通りの他愛のない会話を交わすことで、少しでも彼の気晴らしができたら、と。
そう思いながらスクィは努めて明るく話を続け、
「来年はどんなお祭りを見られるんだろうね?」
「どうだろうな」
チカも気のない返事を返しつつもその場から立ち去ろうとはしないでいて……。
「……」
そうしているうちにふと会話が途切れ、
「……」
「……」
遠くから聞こえてくる祭りの喧騒を聞きながら、スクィはチカの横顔をじーっと眺めて……
はたと気づいて、スクィはポケットから小さな箱を取り出して、
「……えい!」
「なっ!?」
ぺしっ、と、取り出した小箱をチカの頬へと突き出す。
「いきなり何を……」
「チカちゃんに、俺からのプレゼント」
文句を言おうと振り返ったチカに、いたずらっぽく笑ってスクィが箱を渡す。
思いがけないタイミングで渡されたプレゼントに、チカはきょとんとした表情になって、
「イテェな……」
そう呟いて、すぐに不機嫌そうな表情に戻って顔をそむけてしまったけれど……でも、ちゃんとプレゼントを受け取ってくれた。
どこか遠くを見つめるチカの横顔に、スクィはそっと微笑を向ける。
プレゼントに込めた思いに、彼は気づいてくれるだろうか?
(「俺はいつでも傍にいるよ? 迷惑じゃないから、頼っていいから……俺のこと……忘れないで……」)