■クロノス大祭『飛び込んだ居場所、抱きしめた温もり』
ウサギの踊る時計塔の下では、仮装ダンスが行われていた。広場には、軽やかな音楽が流れ、可愛らしい仮装姿の人々が集まっている。
屋台などもあるようで、皆それぞれに楽しんでいるようだった。
トウジュとキサは、思い出にと仮装ダンスへ参加した。
トウジュは付け耳と付け尻尾、そして青いマフラーを巻いた星霊スピカの仮装。
キサはふわふわの兎耳に赤いジャケットを羽織った、星霊クロノスの仮装でこのダンスに参加していた。
曲が始まり、人々がステップを踏み始めたのと同時に、トウジュとキサも手を取り合って踊りだす。
まだまだ踊りなれない二人のダンスは、時折互いの足を踏みそうになったりと、危なっかしい。
それでも、わくわくするような楽しいひとときだった。
（「星霊スピカなトウジュさん……可愛い」）
キサは踊りながら、少し照れたようなトウジュを見つめ、微笑む。
二人の間に、金の砂と白い雪がふわりふわりと落ちてきて、きらきら輝いている。
（「キサ、めっちゃ可愛い」）
まわりにも兎耳を付けた人は何人かいるようだったが、トウジュにはキサが一番似合っているような気がした。
軽やかな音楽は、やがて少しずつ終わりへ向かって流れていく。
曲の終わりに合わせ、キサは思い切ってトウジュの胸に飛び込んだ。
トウジュは驚きつつも、着ていたコートでキサの身体を包むように抱きとめた。
踊っていた名残だろうか、二人の鼓動は少し早く互いに伝わる。
キサは呼吸を整えると、トウジュを見上げてはにかんだ。
トウジュもキサを見下ろし、軽く微笑む。
こうしていると、温かい。
「トウジュさん、ダンス楽しかったですね」
「そやな」
ダンスの輪から離れても、二人はそのまま離れずにいくつか言葉を交わした。
お互いが映る相手の瞳を見つめ合い、大切な人の温もりを間近で感じることのできる幸せを噛み締める。
これから先もずっと、この温かさを感じあえる距離で共に歩んでいきたい。
それが二人のささやかで、何よりも大切な願いだった。
