■クロノス大祭『これ、何かが絶対間違ってるッス!!』
「こんなのおかしいッスよー!!」金砂と雪の舞う夜空にムメイの絶叫が響き渡った。
時は数刻前に遡る――。
「今宵、一緒にボランティアに参らぬか?」
ムメイの元を訪れたマテラが楽しげな笑顔を浮かべて口を開いた。
「イイッスよ〜」
お人好しなムメイは暢気に快諾する。マテラが企んでいた事など微塵も疑わずに。
「では、これに着替えるのじゃ」
差し出された衣装が入っていると思われる袋。
「ボランティアに相応しい服装を用意してくれたんスね。マテラさん流石ッス」
「うむ。ムメイに似合うように調整もしたのじゃ。ささ、早く着替えてくれぬかえ?」
満面の笑みを浮かべるマテラ。勘のいい人間であれば、ここで何かあると気付くかもしれない。
「じゃ、着替えてくるッス」
しかし、ムメイは楽しそうに袋を抱えて、部屋を出た。着替えて姿見を確認すると、頭に角、栗毛色のボディースーツという、まるでトナカイのような自分。
(「どんなボランティアなんスかね……」)
そんな疑問を持ちつつ戻ると、
「似合うのぅ♪」
赤い衣に着替えたマテラが待っていた。
「これぞ異国に伝わる聖人の装いじゃ。彼の聖人は従者にトナカイを引き連れ、子供に贈り物を配り歩くという」
マテラは自信満々に説明する。
「なるほど、伝説の聖人に扮して人々に贈り物をするんスね!」
ムメイは、それで自分がトナカイ役なのかと納得した。聖人とトナカイが一緒に贈り物をするとは、なんて素敵だろう、と。続く言葉を聞くまでは。
「トナカイはソリを牽くのじゃ!」
マテラはニヤニヤしながらソリに腰掛けた。その瞬間にムメイの表情が笑顔のまま固まったのは言うまでもない。
「さあ、ムメイトナカイよ! 今夜中にラッドシティを巡るのじゃー!」
手綱を引き、鞭を振って大はしゃぎするマテラ。
「そんなの無理っすよー!」
涙目になりながら絶叫しつつ、猛スピードでソリを牽くムメイの姿がクロノス大祭の夜空に目撃されたという。
(「でも、こんな騒いで過ごす日もいいかもしれないッスね」)
――トナカイも聖人に『楽しい思い出』という贈り物を貰っていたようだ。