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2人でクロノス大祭

鬼畜嫁・サイレント
インサニティ・アレサ

■クロノス大祭『スカードふたり 〜トラウマ兎の夜〜』

 繰り返される呼吸と、シーツが擦れる音だけが薄暗い部屋に響き渡る。
 窓の外は、今頃きっと金色の混ざった粉雪が舞う中、夜通し騒ぐ人々の活気に満ち溢れているに違いない。けれど、この部屋の中は違う。ゆるゆると余韻を味わうかのように重なっていた唇が離れ、やがてサイレントのかすれた囁きがこぼれた。
「優しく、するって……言ったの、に」
「あは……ごめんなさい……?」
 謝る言葉を口にしながらも、笑って。だってだってだって、もっといっぱい見ていたかったんです、とアレサはサイレントを見つめ返した。
 伸ばした指先は彼女の耳たぶへ。かすめるようにして、すっと闇に溶ける漆黒の髪をすいていく。優しく、やさしく……ふとした拍子に砕けてしまいかねないほど、脆くて壊れやすい宝物を、大切に大切に愛でるかのように。
 ゆっくり、時間をかけて動かされた指先は、やがて頬へ、唇へ……顎へ。更にその下、首筋へと触れようとして――。
「……アレサ……?」
 不意に止まった動きに怪訝さを感じ、サイレントは半ば伏せていた瞼を持ち上げる。
 そうして見つめた先にあったのは、瞳を翳らせる暗い色。そこへ渦巻く感情に気付き、サイレントは思わず息を呑んだ。
 そして同時に理解する。
 残された傷痕。
 目に見える形で残らず、消え去っていった無数の痕。胸の内側に、堅く閉ざしても浮かぶ瞳の裏側に刻まれた痕。ともすれば声が出ないほどに身をすくませる……恐怖。
 そして、それに誰よりも憤ってくれるアレサ。もはや彼らはどこにもいないというのに。今もなお、サイレントを傷つけた彼らを、彼女は決して許しはしない――。
「―――ッ………」
「!? ダメっ!」
 アレサの唇から紡がれようとしていた呪詛を阻むかのように、サイレントは己の唇を重ねた。
 ふわりと。
 触れた感触がアレサを内から突き上げる、暗い衝動から解き放っていく。
「……貴方をひとりになんてしないから」
 少しだけ離れ、でも微かに触れ続けたままの唇から言葉を紡げば、アレサの震える腕がサイレントの背へ回された。
 がくがくと、乱れて止まらない体を受け止める。
「お互い様……なんですね」
「一緒にいよう。ぜんぶ、いつか思い出になる」
 すがるように、励ますように。身を寄せ合って二人は、どちらからともなく笑い合う。
 未だ癒えない、互いの傷を舐め合いながら――彼女達の夜は、更けていく。
イラストレーター名:はなも大王