■クロノス大祭『雪の記憶〜blanche memoire〜』
雪降る道をタルジュとレーヴェはゆっくり歩いていた。二人きりのクロノス祭。白い雪は恋人たちを祝福するように美しく舞う。
ここまで積もるのも珍しいのだろう、タルジュはレーヴェの傍から急に離れ、翻って彼を正面から見た。
「折角だから雪でも見に行かない?」
それは問いかけではあったが、半ば強制でもあるのだろう。
タルジュは彼からの返事を待たぬまま、雪化粧に染まった森へと駆けていった。
思いつきで言葉を投げかけ、こちらの返事を待たずに行ってしまうのはよくあること。
またかと内心思いつつも、レーヴェはその後を追った。
月の淡い光が舞い降りる雪を柔らかく照らす。
白いヴェールを纏った木々のトンネルの美しさを見渡すように、前を進んでいくタルジュ。
その後ろからは、彼女を見守るようにレーヴェが追っていた。
「ん……」
そんな彼に対して、タルジュは時折振り返り、複雑そうな顔を見せる。
自分と一緒に居ることが楽しくないのだろうかと一抹の不安を抱えながら、先へ先へと進んでいく。
そんな調子で歩き続け、やっと木々のトンネルを抜けた。
辺りは一面銀世界。広大な敷地に白くふわふわした絨毯が敷き詰められていた。
一歩二歩歩いたところで、タルジュはふと空を見上げた。
「あっ……綺麗」
鮮やかな月だった。美しい月だった。
雪の世界に負けず劣らずの月光にタルジュが魅入っていると、後ろからやってきたレーヴェもやっと彼女に追いついた。
空を見上げる彼女の口元から、白い息が漏れる。
レーヴェは口をほころばせ、自分のマフラーを彼女の首元にそっとかける。
「んっ!?」
それと同時に、レーヴェは後ろからタルジュの体を抱きしめた。
一瞬、何があったか分からず、タルジュはきょとんとして背後に居るレーヴェを不思議そうに見つめるが、すぐに受け入れ彼に体を預けた。
「あったかい」
彼の温もりを背中に感じながら、タルジュはゆっくりと目を瞑る。
「タルジュ……」
そんな彼女の耳元に、レーヴェはそっと囁く。
「っ」
その言葉は、体の熱を上げるには十分で。
心臓に直接響くような甘い囁きに、タルジュは照れ笑いをしてレーヴェの方へ体ごと向かせて、胸に顔をうずめる。
「もうっ」
恥ずかしさが募り、タルジュは握り締めた手をレーヴェの胸にトンっと当てる。
そんな彼女をあやすように、レーヴェは優しく頭を撫でた。
暫くそのまま二人抱き合い、長い静寂を過ぎたところで。
レーヴェはタルジュの肩に手を置き、そのまま顎の方へ移動させる。
彼の指先が頬に触れたのを合図にするように、タルジュは顔を上げた。
慈愛に満ちた微笑みを浮かべるレーヴェの顔がそこにある。
じっと見つめあっていたが、やがて二人の顔は近づきあい、触れるか触れないかの優しい口付けを交わす。
そんな微笑ましい二人の愛を見守るように、雪は降り続いていった。