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2人でクロノス大祭

ソルイーハ・ラブラドライト
黎明の愚者・リオ

■クロノス大祭『金砂幻想』

「もういっぺん、こんな景色を見に行こうぜ」
 リオがラブラドライトにそう声をかけたのは、時計塔を出てすぐ。
 繋いだままの手を優しく引くと、ラブラドライトが目を丸くして、次いで嬉しそうに笑う。
「うん!」
 わたしも同じ事を考えていたんだよ――そう告げる代わりに握った手を、もう一度強く握りなおす。
 向かったのは街外れにある古びた塔。使われなくなって久しい塔は、街を一望できる小さな山の上に建てられている。
 二人きり、もう一度景色を心に焼き付けるには絶好の場所である。
「にゃっ!」
「ラブちゃん!」
 山道でラブラドライトが足を滑らせる。地面と正面からキスをするはめになったが、幸い、感じたのはふかふかの雪の冷たさだった。思い切り転んだせいで多少の痛みもあるが、裸の地面よりは遥かにマシである。
 それでも時計塔の感動から一瞬で冷めるのには充分な衝撃で、ラブラドライトは転んだままの体勢で固まってしまっている。
「大丈夫か?」
 言って、リオは硬直したまま動かない少女へ優しく手を差し伸べた。
「転んじゃった……えへへ」
 少し恥ずかしそうに、そして多少の痛みを誤魔化すように笑うと、リオもつられて笑みをこぼす。
 そうあるのが当然とでもいうように自然と重ねる手。
 再び繋いだ手を、ただ握るだけでは物足りないというように指を絡めるラブラドライトに、リオは笑みを深くする。
「仕方ないなぁ、ラブちゃんは」
 呆れたような物言いも、どこか幸せを噛み締めているように柔らかい。 
 転んだ少女を気遣って、いつもならば帰ろうかと切り出すリオも、今日は少しだけ強引で。
「おいで。一緒に、今日の思い出を作ろう」
 ラブラドライトは、リオがこうして手を引く相手が自分である事に、ささやかで愛しい『一緒に』というわがままに、心から嬉しそうに笑って頷いた。
 そうして辿り着いた塔の上。開け放った窓からの景色に、ラブラドライトの感嘆が吸い込まれる。
 降り積もる雪。金砂のイルミネイション。眼下に広がる暖かい祭りの灯。
 時計塔の屋根は大輪の花のようで……きっと隣に立つリオも、同じ気持ちを感じているだろうとそっと伺い見る。
 瞬間、開け放った塔の窓から、風と一緒に雪と金砂が吹き込んで。
「きゃっ」
 身を竦ませて、恐る恐る顔をあげた先。愛しい恋人が微笑んでラブラドライトを見つめていて、優しい視線が心臓をきゅうと締め付ける。
 切ない思いは言葉になって、
「……時計塔のアレじゃ、足りないよ。もっと……」
 小さく強請って、眼を閉じる。
「いいよ」
 金砂舞う二人きりの塔の上。冬の淡い光に伸びる影は、優しく重なる。
 ラブラドライトの頬を一筋降りた涙を、静かに降る金の砂が彩っていた。
イラストレーター名:はしま