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2人でクロノス大祭

扇の群竜士・ヨヘールアイゼ
天孤星・ノンカ

■クロノス大祭『とある白鼠の見た風景:24日の夜の出来事』

 杯の火酒はゆらゆらと、男と女、その二人きりを面に映し、見惚れる間もなく喉奥に消える。
 また一杯を飲み干して、ノンカは一息をついた。その続きの手酌を、対面に座るヨヘールアイゼが瓶ごとひったくって、互いに同じ量を杯に注ぐ。
「いやあ〜、呑むねえノンカ。おっちゃん見る度に驚くよ!」
「お主こそ、つまみもなしにそう急いて呑んでは、じきに腹を壊すぞ?」
「ノンカにゃあ言われたかねえよ、っと」
 注いだ酒を一気にあおり、卓に空の杯を置くと、すかさずノンカが酒を足しに来た。結果、触るだけでこぼれそうな程に満ちた杯を前に、ヨヘールアイゼは僅かに戸惑うが、ノンカはそ知らぬ顔で男の隣に座る。
「お、おいおい……。おっちゃんそろそろ、アルコール摂るのサボろうかと思ってたんだけどね〜」
「あほたれ。この美酒を余計に多く分けてやろうというのだ。感謝されこそすれ、そう邪険にされるのは気に食わん」
 尻を寄せて問い詰めてくる女に、たはは、と後ろ髪を掻くヨヘールアイゼ。
「それとも、こう言ったほうがよいかのう。すなわち……」
「すなわち?」
「ワシの酒は飲めんかの?」
「……タチの悪いお姫様だよ、ホント」

 ノンカの後ろ、背負われたように座るヨヘールアイゼは、酒量の前にはさすがに潰されたのか、ゆらゆらと舟をこいでいた。その様子を、彼のペットである白鼠のソノーチが心配そうに覗き込んでいる。
「ところで、今年は幾つの街に行ったか、お主は覚えておるか?」
「う〜……、あ〜……、三人?」
「幸せ者じゃのう、お主」
 さてようやく手酌じゃの、とノンカは手元の瓶を眺めた。しかし、調子に乗って勧めすぎたか、底には舐める程の酒も残っていない。
「取ってくる。そこでおとなしくしておれ……お?」
 と、席を立とうとしたノンカの腰に、ヨヘールアイゼの腕が絡んだ。すとん、とおとなしく膝上に落ちてきたノンカに、ヨヘールアイゼの声が被さる。
「今年……今年か〜。おっちゃん、今年も無事に生き残れたわ〜、来年もまた……」
「…………」
「来年もまた、二人で今日を祝いたいものやね〜」
 顔を覗き込んでくるヨヘールアイゼに、ノンカは一言、そうだな、と静かに答えた。

 二人はしばらく、寄り添ったままに座っていた。話題も酒も手元から尽きてしまい、しかし寝てしまうには惜しいと、ヨヘールアイゼは思った。
 どかん。
 ヨヘールアイゼは背負い投げで壁に叩き付けられた。
「あ、あれ? おっちゃん今いい感じに……あれ?」
 逆さに壁をずり落ちるヨヘールアイゼに、ノンカが襟を正して言う。
「お主は何故そう考えと行いが直結するかのう?」
 余裕綽々とヨヘールアイゼを投げ飛ばしたノンカは、その逆さ男に手を差し伸べた。
「まあ、来年もまた、こんな機会があるといいな。そこの所は、ワシもお主とおなじ考えじゃ」
 言われ、微笑むヨヘールアイゼと、言い、照れるノンカの姿を、白鼠のソノーチはいつまでも見つめていた。
イラストレーター名:藤科遥市